空のシェアリングを行うトルビズオンが作る新しい世界とCX

空の活用という新しい提案をするトルビズオン。同社のCEO増本衛さんにインタビューを行いました。
インタビューの過程で見えてきたのは、まだ世にないビジネスをする上での課題や顧客体験への取り組みでした。
トルビズオンが目指す新しい世界とはどのようなものなのでしょうか。
空を活用した新しいサブスクリプションサービスに迫ります。
インタビュイーについて
株式会社トルビズオン 代表取締役:増本衛さん

2014年当社設立、代表取締役就任。映像制作からスタートし、2015年にドローンに出会う。
以降、販売代理店・スクール経営などのドローンビジネスを一通り経験。
九州エリアの産官学連携組織「九州ドローンコンソーシアム」の創立者・代表理事。
日本で一番価値のある空を作る
貴社のサービスの概要を教えてください

上空シェアリングサービスsora:shareは、土地所有者とドローンユーザーをつなぐプラットフォームです。
民法207条が定める地権者の権利に基づき、ドローンユーザーは他人の土地上空で飛ばすには許可が必要となっています。
ただ、事業者がドローンを飛ばすためにすべての土地所有者の許可を得るのは困難です。
その問題を解決するため、地権者が持っている上空の権利のマーケットプレイスを作り、権利の取引を促進する場を提供しています。
どのような方が利用されるのですか?
今はニッチな市場ではありますが、空撮や試練用途で500名弱のドローンユーザーさんが利用されている状況です。
地権者は100箇所くらいの登録があり、遊休資産である「空」をマネタイズすることが可能になります。
ビジネスモデルについて教えていただけますか?

我々のビジネスモデルはサブスクリプションモデルです。
月額3000円のスタンダードと月額9900円のプレミアムがあり、空を使用する際に使うソラコインが毎月付与されます。
さらに、unlimitedという、コインを消費することのない「使い放題の空」を用意しています。
地権者の方は、ユーザーにソラコインを消費してもらって収益を受け取る仕組みになっています。
一方のunlimitedからは収益が入りません。
なぜ土地所有者が無料で土地を登録するかというと、空を貸すことによって得る収益を稼ぎたいわけではなく、ツーリズムニーズを求めているからです。
自分が登録した空にドローンユーザーがたくさん来ることを望んでいます。
Unlimitedの登録者は、 サイト上のPRパートで自社サービスのプロモーションができるようにもなっています。
ドローンの可能性を広げたい

なぜ、現在の取り組みを始められましたか?
長年ドローン事業に携わってきた中で、上空の使用許可を取るのが難しいという課題がありました。
地権者としては、プライバシーの侵害や住居の侵入、騒音、風圧、墜落リスクなどが懸念点になります。
ドローンの社会受容性を高めるためには空域の権利の取引を一般化して、土地所有者に一定のインセンティブを与えることが役に立つと考えスタートしました。
さらに、ドローン訓練等の価格が高いという課題があります。特に都内は。
九州など地方ではドローンを飛ばせる場所は多々ありますが、都内ではドローンを飛ばすための場所確保のコストがとても高いです。
ドローンのシェアがもっと社会に広がるためには、一人でも多くのプレイヤーが必要になります。
そこで飛ばす場所を低額で利用できる仕組みを取り入れました。
スカイマーケットの価値を伝える

現在はどのようなCXを提供しようと考えていますか?
LTVを上げるためには、現段階でお金を払ってくれるドローンユーザーの体験価値を上げる必要があると考えています。
サイトでいうと、現在地の半径何Km以内や地名を指定して空を検索することができるようになっており、ホテルの予約サイトのように使うことができます。
人気の空、新着の空など、レコメンドのような形で空をピックアップして表示するということもやっています。

土地の配置も戦略的に獲得していきたいと考えています。
ドローンユーザーとしては、空が使える場所へいかなければならないため、自分の住んでいるところの周囲何kmに土地があるかがポイントになります。
そのためには圧倒的なカバー率が必要です。
ただ、同じような場所に同じような土地があっても意味がありません。
海や山、草原、牧場のように、土地の特徴にバリエーションがあれば、すべてを回っていろいろな撮影ができるようになります。
CX向上をしていくための課題はありますか?
ドローンユーザーの体験を向上させるには、空を開拓していく必要があります。
空を開拓するためには地権者に登録してもらう必要がありますが、今までにないサービスをやっているため、地権者にとってサービスの仕組みが分かりにくいことが課題です。
営業マンが「空を貸しませんか?」とやってきたら怪しまれます。
土地所有者にとっては、空を貸すことによるリスクも判断しづらく、地権者にとってのCX向上をどのようにすればいいかが課題になっています。
また、空の登録数を増やしていくためには、所有者が所有者を紹介して広がっていくように設計することが重要だと考えています。
サービスの知名度や理解を促進するために、SNSや広告でのブランディングも非常に重要になってきます。
SFの世界を実現する

今後の展望についてお聞かせください。御社はtoCだけではないビジネス展開を考えていらっしゃるのではと感じているのですが
sora:shareのスカイマーケットがあり、次はスカイロード(ドローン物流ようの空の道)、スカイドメインを使ったあらゆる空のデータベース化、三次元空間のビッグデータを活用したビジネスへと発展させていきたいと考えています。
空の活用には航空法の規制など、高いハードルがあります。
そのため、空の活用の足がかりとしてスカイマーケットからスタートさせました。
空のデータベース化にはさまざまな分野のテクノロジーソフトウェアやハードウェアが必要であり、アーキテクチャを作っていく必要があります。
それを構築するための施策が、スカイドメインという仕組みです。
IPアドレスとドメインネームを紐づけて識別をする、インターネット上のDNSの考え方を、空撮の特定に転用したのがスカイドメインです。
緯度、経度、高度の三次元空間に名前をつけて、その立方体やルートとドメインをつなぐことでアクセスが可能になります。
ドメインにデータベースを紐付けて、ドローンの飛行に必要な各種データを格納しています。
これに関してはビジネスモデル特許も取得済みです。
今度、どのような取り組みをされていくのでしょうか?
中長期的な目線でいえば、空の交通整備によって空飛ぶ車での人の移動すらも実現できると考えています。
航空法上、2022年以降にレベル4(都市部での目視外飛行)をクリアしないといけないというハードルがあるのですが、技術が担保されたら安全性を確保した上で段階的に制限を解除していくという国の方針があります。
そこに我々のソラシェアのプラットフォームを使えば、土地を所有している人たちが主体的に自分が所有する土地上空でドローンを飛行しても良いという合意を取り付けた上で、実証実験等を実施できるので合意形成が楽になります。
例えば、我々は福岡、つくば、神戸等のスマートシテ等を目指す自治体と実証実験を行っています。
つくば市では住宅地に入り込むような空路を利用したドローン配送実験も実現しました。
山口県の下関市では、地元の森林組合と提携し、11名の土地所有者と合意を形成して空の道が完成しました。
ただ、一社ですべてをやるのは現実的ではありません。
さまざまな企業とのコラボをしながらオープンイノベーションで事業展開を進めていきたいと考えています。
編集後記
ドローンを足掛かりに空のインフラ整備を目指すトルビズオンの代表増本さんにお話を伺いました。
10年以上先の世界を見据えた実証実験と目先のマーケットづくりという両輪を回しながら、事業を展開していく苦労が垣間見えました。
空の活用という新しい分野であっても、代表が感じたドローンの可能性と課題という原体験があったことで、良質な顧客体験を提供できているのかもしれません。
空のデータベース化という世界的ビジネスの今後が楽しみです。
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