SaaS事業計画はどう取り組む?作り方と評価方法を解説

SaaS(Software As A Service) やサブスクリプションモデルのベンチャー企業が大きな活躍を見せています。新たにSaaSビジネスの立ち上げを検討し始めている方も多いのではないでしょうか。
ここではこれからSaaS事業を開始する方向けの、事業計画の立て方とシミュレーション方法について解説します。SaaSビジネスの成功確率を高める、既存ビジネスモデルとは異なった考え方についても紹介するのでぜひ参考にしてください。
そもそもなぜSaaSビジネスが成長しているのか?
まずはSaaSビジネスモデルをとる企業が急速な成長を見せている背景について、改めておさらいしておきましょう。
主な理由としては以下の3点が挙げられます。
1. IT技術の発達により、「所有」から「共有」の時代へ移り変わった
スマートフォンやIT通信技術が普及するに伴い、人々の意識が「必要な時に必要なだけ使えればいい」という風に変化しつつあります。民泊サービスやカーシェアに加え、日本国内でも徐々に浸透し始めたフードデリバリーも外食産業におけるシェアリングサービスです。
シェアリングエコノミーに関わる企業の売上高も、下記のグラフの通り爆発的に増加中です。
SaaSビジネスが成長してきた要因として、利用者の感覚が「所有」から「共有」へシフトしたことは非常に重要なポイントの一つです。
これらのサービスの特徴的な点は、プラットフォーム上でサービスの利用者と提供者が互いに評価し合い、信用力をカバーしているということです。
また、Fintech(金融系テクノロジー)が発達したことで、利用者が安心して簡単に決済できるようになったことも影響しているでしょう。
2.クラウド化が進み、ビッグデータを活用しやすくなった
ビッグデータを用いることで、従来のビジネスモデルよりもダイナミックにサービスの改善を行うことができます。
SaaSビジネスは、利用顧客の行動や嗜好といったデータ収集を容易に行えるため、常に顧客目線に立った品質改善を継続可能です。これにより、見込み顧客やスポット顧客をリピーターへと導きやすくなりました。
顧客が増加したことでさらに豊富なデータを獲得し、よりよいサービスに変えていくという好循環を生み出すことができる点も、SaaS企業の強みです。
3.サブスクモデルと密接に関わるため、経営の見通しが立ちやすい
上記のような「顧客との長期的な関係」を築くことは、企業の収益を安定させるという効果もあります。
SaaSビジネスは、売り切り型ではない継続課金型モデルが一般的です。
そのためしっかりとしたシミュレーションを行なって事業を軌道に乗せることが出来れば、将来の見通しが非常に立ちやすいです。
新規事業や研究開発の資金調達を行いやすいため、事業規模をジャンプアップさせるチャンスが多いのがSaaSビジネスの魅力といえるでしょう。
事業計画をどうシミュレーションする? SaaS事業を実施する際考慮するべき評価基準
SaaSモデルでは顧客からの売上も中長期的になるため、従来の決算書でいう期間損益とは少し異なった評価基準が必要となります。
キーワードとなるのは「顧客一人当たりの採算性」を意味する、ユニットエコノミクスを健全にすることが重要です。
具体的には
- (LTV)/(CAC)で算出される数値が3以上であること。
- Payback Period(資金回収期間)が12ヶ月以内であること。
という2点の条件を満たすことで、その事業は成長が望めるとされています。
ここでは、上記を算出する上で関わる「LTV」「CAC」「MRR」「ARR」「チャーンレート」という5つの指標を簡単に紹介します。
LTV:Life Time Value(顧客生涯価値)
一人or一社の顧客が取引を開始してから終了するまでに、どれくらいの利益を出すかを算出する指標です。
計算式は、LTV=(一顧客あたりのMRR)/(Churn Rate)で算出されます。
MRRおよび、Churn Rateについては下記を参照ください。
CAC:Customer Acquisition Cost(顧客獲得コスト)
CACは一顧客を獲得するために発生するコストを表す指標です。資金調達を受ける場合、投資判断の重要な指標とされます。
これには、口コミや検索流入などで自然発生したOrganic CACと、広告などお金を支払って獲得したPaid CACの、2つを合計したBlended CACを用いるのが通常です。
計算式はBlended CAC=(マーケティング・セールスの支出合計)/(新規顧客数)となります。
MRR:Monhly Recurring Revenue(月次経常利益)
MRRは平たく訳すと、「毎月繰り返し発生する売上」となります。SaaSビジネスにおける、基本的な収益の単位です。
本章冒頭で紹介したPayback Period(資金回収期間)=(平均CAC)/(平均MRR)で算出できます。
ARR:Annual Recurring Revenue(年次経常利益)
上記、MRR(月次経常利益)を12倍した数値です。
事業運営に着手する段階で資金調達を受ける場合、このARRが投資判断の最重要指標となります。
Churn Rate:(顧客離脱率)
顧客の総数のうち、何件の解約や離脱があったかを示す指標です。
Churn Rate=(当月の解約顧客数)/(前月末時点の顧客総数)で算出できます。
上記式は例として月当たりの式となっていますが、年次や週次での算出も可能です。
詳しくKPIをこちらの記事にて説明しておりますので、ぜひ参考にしてください。
新規SaaSビジネスを開始する上で抑えておくべきポイント
ここまで紹介してきた指標や数値の目標を踏まえた上で、新規にSaaSビジネスに着手する上で特に注視するべきポイントをまとめます。
SaaS顧客対応は攻めのカスタマーサクセスが必須

SaaSビジネスはその特性上、売り切りモデルとは異なる「顧客との継続した関係性の構築」が重要です。
そのために常に顧客ニーズを上回るサービスを提供するという、「攻めのカスタマーサクセス」が不可欠となります。
上記のLTV=(一顧客あたりのMRR)/(Churn Rate)という指標が表す通り、顧客離脱率を低減させることが、収益や事業の存続性に直結するという点を十分に理解しておきましょう。
資金調達を視野に入れた事業計画を

SaaSビジネスで重要となるLTVを高めるためには、商材を生み出すアイディアとイノベーションに加え、最先端の技術力がなくてはならないものです。そのためSaaSビジネスを開始する際は、成長投資のための資金力が必要となります。
スタートアップやベンチャー企業においては、資金調達も視野に入れた事業計画の立案が不可欠になるでしょう。
説明してきた通り、SaaSビジネスは伝統的な決算書からはなかなか判断しにくいです。まずはCAC・MRRを明確にし、Payback Periodと損益分岐点をじっくりシミュレーションすることが重要です。
身近なSaaSビジネスの成功例
SaaSビジネスは長らくアメリカを中心として海外で展開されてきましたが、近年では日本国内でも急速な成長を見せています。
何れも上場を果たしており、スタートアップからは比較にならない規模にまで拡大している企業ばかりですが、資金調達の経歴なども軽く触れますのでご参考までに3社紹介します。
クラウド名刺管理サービス『sansan』
「sansan」はAI技術を利用した名刺管理サービスです。同名サービスは企業向けですが、オンラインで名刺交換ができる個人向けツール『Eight』も同社が提供するサービスです。
2007年創業で、当時はまだベンチャーキャピタルが一般的でない時代だったにも関わらず、シードラウンドで5,000万円以上の資金調達を行なっています。
またシリーズA〜Eにかけて100億円以上を調達し、2019年6月に上場を果たしました。
事務管理作業を効率化するサービス『freee』
『freee』は、確定申告から企業の経理部門の作業を効率化するサービスです。会計・経理に関わるサービスのみならず、開業届から人事労務まで幅広く対応しています。
2012年に創業し、正式サービスリリース前にアメリカのベンチャーキャピタルから5,000万円を調達。早くも2019年にマザーズ上場を達成しています。
累計資金調達額は現段階で161億円を超えており、爆発的な成長を見せたSaaS企業の代表格として有名です。
交通費・経費精算を楽にする中小企業向けシステム『ラクス』
『ラクス』は、経費精算や販売管理、メールグループウェアなど資本に乏しい中小企業向けのクラウドサービスを提供しています。
同社は2000年に創業した企業で、SaaSビジネス立ち上げに関わる出資を受けた経歴はないようです。ただし、同社はもともとメーリングリストビジネスを手がけており、国内No.1シェアに育てたのち楽天に事業売却を行っています。
ITエンジニア養成ビジネスも並行して行っていることもあり、内部留保を活かしてスタートしたことが推測されます。
まずはプロダクト戦略の確認を。SaaS独自の評価基準が必要。
SaaSビジネスは戦略的に行えば継続的な成長を期待でき、またその成長曲線を予測しやすい点が最大の魅力です。しかし、「なんとなく売上が上がりそう」というイメージだけで突っ走ってしまうと失敗する可能性もあります。
成功させるためには、既存のビジネスモデルとは異なる独自の事業計画の立案・シミュレーション、および各指標に大きく関わるカスタマーサクセスが何よりも重要です。
SaaSビジネスはまだ発展途上の段階であるため、まだノウハウや事例が十分に出揃っているとはいえません。最新のビジネスモデルに明るい専門家のコンサルティングやアドバイスを受けることも効果的ですので、成果が現れない場合は積極的に外部の意見を参考にするといいでしょう。参考になりましたら幸いです。
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