成長期SaaSで注目するべきKPIは?チャーンレートとリテンションレートが重要視される理由

SaaSビジネスにおいては各事業フェーズに合わせて将来性や継続性を柔軟に評価し、最適な施策を行い続ける必要があります。
ここではスタートアップ期を終え、成長期にさしかかったSaaSで注目すべきKPIについて解説します。
中でもチャーンレートとリテンションレートが重要視される理由についても掘り下げます。
SaaSのKPIの中でなぜチャーンレートとリテンションレートが重要視されるのか?
SaaSは当然のことながら、一定の顧客が存在しなければビジネスとして成り立ちません。
そのためついつい「ユーザーの数」や「新規獲得顧客数」に着目しがちですよね。
しかし、キャッシュフローを改善するために本当に目指すべき姿は「顧客が離れず、出来るだけ長く顧客でいてくれること」です。
チャーンレートとリテンションレートは、そのビジネスがきちんと顧客を掴めているかを浮き彫りにする指標であるからこそ、SaaSの本場である米国でも重要視されているKPIです。
チャーンレートとリテンションレートが健全でなければ、新規顧客数が増加し続けても収益が改善しにくくなる悪循環が生まれます。
反対に、2つの指標が優れていると、例え新規顧客数がゼロでも成長性が期待できます。
チャーンレートとリテンションレート、それぞれの指標の意味と計算方法
SaaSビジネスに必要不可欠なチェーンレートとリテンションレート、まずはそれぞれが何を意味するのかについて解説します。
チャーンレート=解約率
チャーンレート(Churn Rate)は、直訳すると「解約率」となります。
使用される文脈により顧客数ベースでの数値を意味する場合と、収益ベースでの数値を意味する場合があり、
- 顧客数の減少率を表す指標=Customer Churn Rate
- 収益の減少率を表す指標=Revenue Churn Rate
とそれぞれ表記されることもあります。
計算式は下記の通りです。
計算式内のMRRとは月次収益を表す指標で、チャーンレートを用いて事業を評価する際に密接に関わります。
MRRにつきましてはこちらで詳しく述べていますのでぜひ合わせてご参照ください。
チャーンレートが重要視されるのは、顧客の増加数を追っているだけでは見えてこない、ビジネスの成長性が判断できるからです。
わかりやすい例として、下記のグラフを見てみましょう。
チャーンレートが3%と25%では長いスパンで見ると大きな差がついています。
加えて、チャーンレート25%では5年、15%では10年ほどを境にして収益がほぼ横ばいとなっている点が注目するべきポイントです。
チャーンレートが健全でない場合、マーケティングや営業活動に力を入れても全く収益が改善しない状態になることがお分かりいただけるかと思います。
一定の顧客がついてきたのに、なぜかキャッシュフローがよくないのであれば、チャーンレートが高くなってしまっているのかもしれません。
リテンションレート=顧客定着率
一方のリテンションレート(Retention Rate)は直訳すると維持率、保持率となり、SaaSにおいては「顧客がどれだけサービスに定着しているか」を表します。
こちらは顧客数と金額の2つの意味合いを持つチャーンレートと異なり、金額ベースで用いられるのが一般的です。
Net Retention Rate、またはその頭文字をとってNRRと表記されることも多いです。
計算式は下記のようになります。
Expansion MRRはアップセル(プレミアムプランへの格上げなど)によって得られたMRRの増加分、Downgrade MRRはダウンセル(エコノミープランへのダウングレードなど)で減った収益を指します。
平たく言い換えれば、「既存顧客が自社に払ってくれる金額が増えたのか、減ったのかを表す指標」です。
顧客が追加で支払ってくれた収益(Expansion MRR)が解約やダウングレードで失った収益を上回った時、NRRが100%を超えるということになります。
つまり、新規顧客を獲得しなくても収益が増加する状態になり、ビジネスが順調に成長していく期待がもてるということです。
一般的には100〜115%程度の数値が健全な状態だと評価されるため、まずは100%を目指すとよいでしょう。
SaaSのKPIはどのように改善していくべきか?
以上を踏まえ、チャーンレートが高い、あるいはリテンションレートが低い数値になってしまっている状態を改善するための方法について紹介します。
まずはカスタマーサクセスの再定義を
SaaSは事業内容に関わらず、顧客との関係性が長期間に渡るものとなることがビジネスとしての最大の魅力ではないでしょうか。
そのため、他の事業でも重要とされているカスタマーサクセスがより一層大きな存在となります。
プロダクトが多くの人にとって使いやすいものか、便利なものかという視点に留まらず、「ユーザーがプロダクトを使用してどんな価値を得るのか」についてまで細かく分析する必要があります。
どんなに素晴らしいテクノロジーを用いていても、開発スピードの早くなった今日においては、差別化できる可能性は高くありません。
結局は人と人との信頼関係やローカルな結びつきにより、顧客ロイヤリティが向上するはずです。
まずはチャーンに繋がってしまった理由を徹底的に洗い出すことから始めるといいでしょう。
この際、プロダクトの利便性だけでなく、プライシング、UI/UX、サポート体制なども含め、問題点がなかったかを幅広い視野を持って確認することが重要です。
カスタマーサクセスを専門に行う部門を設け、ユーザーとの接点強化を行えばさらに効果的になります。
カスタマーサクセスに関しましてはこちらの記事でも解説していますので、ご参照ください。
https://kizukai.com/cxlab/2020/01/29/post-955/
自社事業やフェーズに合わせたKPIの設定
SaaSはビジネスの特性上、成長のために一定の投資を必要とするケースが多く、事業フェーズによっては黒字化することが難しいことも珍しくありません。
そんな背景もあり、SaaSビジネスの方向性や施策を評価するために、KPIがたくさん存在しています。
KPIは収益のシミュレーションを立てていく上で必要不可欠なものですが、注意したいのは、事業のフェーズやプロダクトに合わせて最適なKPIを選択する必要があるということです。
例えば、今回紹介したチャーンレートやリテンションレートは全期間においてチェックしておくべき要素ですが、スタートアップ期にはユニットエコノミクスに、より着目するべきだと思います。
また、プロダクトのジャンルや価格帯においても選択するべきKPIは変わります。
無料会員・トライアル会員を多く抱えるプロダクトであればExpansion MRRの向上を目指すべきですし、高額サービスであればアップセルやクロスセルなどを行いつつ、LTV(Life Time Value)を最大化していくべきです。
SaaSにおけるKPIの選定方法についてはこちら。
https://kizukai.com/cxlab/2019/11/21/post-757/#outline__3_2
KPIをPDCAに活用できればSaaSでは特に効果が上がりやすいため、定期的に情報を更新しつつ、自社プロダクトの現状を冷静に見極めましょう。
顧客をスコア化して定量的に評価する
顧客を細かく分析し、カスタマーサクセスを実現させる上でツールを活用するのも有効な手段です。
弊社が提供する「KiZUKAI」は、顧客データを入力するだけで、AIがLTVや顧客満足度を算出します。
解約済みの顧客データをお持ちであれば、既存顧客の解約リスク数値化も可能です。
データがない場合でも、それぞれの状況やお話をお伺いしつつプライシングや事業内容の最適化をサポートします。
SaaSは常に顧客目線であるべき
SaaSは比較的新しいビジネスモデルながら、米国を中心に急速に研究が進んでおり科学され始めています。
クラウドサービスやソフトウェア、アプリケーションなどのフレーズが飛び交うため、プロダクトの中身勝負であると思われがちですよね。
しかし、顧客ロイヤリティ向上のためには、やはり人と人との関係性が肝であるという点は他のビジネスモデルと変わりなく、むしろ継続して付き合う以上、顧客目線に立つ重要性はSaaSの方が高いと考えるべきです。
最適なKPIを選定し、常に顧客目線を忘れずに粘り強く改善に取り組んでいきましょう。
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