圧倒的なスピードでプロダクトローンチするためのオフショア開発のリアル

圧倒的なスピードでプロダクトローンチするためのオフショア開発のリアル

海外の現地法人と共にシステム開発に取り組む「オフショア開発」。圧倒的なスピードでのプロダクトローンチを実現したKiZUKAIのCTO永山勇太氏は「互いのリスペクトがオフショア開発を成功させる」と語ります。本記事では開発パートナーBUNBU Japan CEOのレー・ヴァン・ギア氏との対談をお届けします。

【対談者

永山勇太氏(KiZUKAI 取締役CTO)

大手グローバル企業にてカスタマーサポートを軸に様々なチャネルでCRMディレクションのノウハウを築き上げる。自身が経営するIT開発会社の経験を活かし、2016年9月に株式会社モンリッチ(現:株式会社KiZUKAI)のCTOに就任。顧客体験管理が収益につながる次世代型CXMツール「KiZUKAI」の開発に従事し、サービス設計・開発を牽引する。

レー・ヴァン・ギア(LE VAN NGHIA)氏
KiZUKAIの開発パートナー 株式会社BUNBU Japan CEO

ベトナム出身、慶應義塾大学環境情報学部卒業。日本のITで企業でウェブ開発グループリーダーを経て、2017年BUNBUベトナム設立。優秀な開発者を揃え、日本の開発チームと協働し、トップクラスのシステム開発に携わる。ベトナムのITエンジニアの育成にも注力している。

優秀な技術者に出会う選択肢

なぜオフショア開発が良いのか

永山氏:
海外の現地法人と共にシステム開発に取り組む「オフショア開発」については、コミュニケーションや品質にネガティブなイメージを持つ方もいるのではないでしょうか。
KiZUKAIがオフショア開発を採用している理由は大きく2つです。

(1)限られた予算でも優秀な技術者を迎えられる
ベトナムには非常に優秀な技術者が豊富にいます。技術者たちはトップ大学出身者が多く、理解力、機動力に優れています。また維持コストは国内と比較すると1/3程度であることから、新しいプロダクトをリリースしたい初期フェーズにおける強い味方です。

(2)採用に時間をかけずにプロダクト開発がスタートできる
国内人材の採用には書類選考を含めて最低でも2ヶ月ほどかかりますが、それでも優秀な技術者にはなかなか出会えません。スタートアップではチームもプロダクトも素早く作ってリリースし、エンドユーザーのフィードバックを集め、自社の想定や仮説が正しかったのか方向性を確かめ、ナレッジを溜める必要があります。

ベトナムに優秀な技術者が多い理由

ベトナムの学校教育とキャリアパス

レー・ヴァン・ギア/LE VAN NGHIA氏(以下、ギア氏):
ベトナムでは小学校から数学の勉強を重視していることから、学生たちは数学が得意で論理的な思考力が高いです。大学進学の際、試験の成績が高くなければITを専攻できないので、ITを専攻している学生たちは皆優秀です。データベースや開発などいろんな科目がありますが、ベトナムの大学の勉強はハードです。僕は2年間ベトナムの大学で学び、その後、慶應義塾大学環境情報学部で2年間勉強しました。ベトナムでは「必死に勉強したのに将来どんな仕事に就けるかわからない」という学生もいます。この問題を解決するために、BUNBUでは育成を重視しています。具体的にはインターン制を採用し、実際のプロジェクトを通じて仕事の進め方を教え、卒業後にすぐに仕事ができる体制を整えています。

永山氏:
オフショア開発を依頼する国としては、ベトナムの他にインドやフィリピンが比較対象になります。インドは英語と数学に強いですが日本との時差が大きい。米国は時差の真裏がインドで24時間稼働できるため事例は多いと思います。ベトナムと日本は時差が2時間だけで、性格や文化の気質も似ているため、取り組みやすいかと思います。

現地に行ってプロダクトの意義や使命感を共有する

永山氏:
ギアさんとは共通の知人であるベトナムの方の紹介で出会いました。ギアさんが起業した頃、 KiZUKAIは2回目のプロダクト開発で、どういう座組みでプロダクト開発するか模索していました。最初に1週間、途中で3週間ほど現地に行って交流し、現場の空気を感じながら進めていきました。

チームビルディングで大切なこと

永山氏:
現地に行くことでリアルな存在に触れ、同じ価値観を感じ取ることで、日本側の姿勢も前向きに変わってきます。日本の市場ニーズの移り変わりは複雑なので「どういう歴史を経て、この問題が起きているか」「その問題を解決するために、こういうプロダクトが必要」といった彼ら目線では気づきにくいことをきちんと説明します。目的を明確にして「プロダクトを創ろう」というKiZUKAIのDNA(=プロダクトを作る重要性、楽しさ、使命感)を共有することが、チームビルディングに重要なポイントです。

【チームビルディングのポイント】

(1)オフショアメンバーに対面で会う
1週間程度でいいので、同じオフィスで働き、一緒に食事をするなど、働き方だけではなく生活を共にすることで共通の価値観を見つけたり、違いを見つけることができます。彼らを知り、私たちを知ってもらうことで帰国して離れて仕事をするようになってもコミュニケーションのとり方が円滑になります。

(2)「なぜ必要なのか/なぜ創るのか」目的意識を共有する
受注側、発注側といった相対する姿勢や、「早く安く創る」といったドライな捉え方ではなく、同じ目的に向かってワンチームの意識で一緒に作りあげいくために「なぜ必要なのか/なぜ創るのか」目的意識を共有し、前向きに進められるよう疑問を解消していきます。

ギア氏:
日本企業とはブリッジSEがやり取りするので、直接やり取りすることのないBUNBUのエンジニアたちは、永山さんと1回会わなければ壁があるかと思います。やはり、一緒に飲みに行ったり、交流したりするのが一番大事だと思います。

永山氏:
体制としては、日本語ができるブリッジSEやコミュニケーターが間に入りますが、ベトナムの技術者の中にも日本語を話せる方も多いです。ただ仕事の話になると難しい部分もあります。一緒に飲みに行くと「プレーヤーとしてやっていくのか、マネージャーとしてやっていくのか」など、日本のエンジニアと同じような議論をしていて。そういった現地に行かなければ見えない情報に触れることは重要です。実際に彼らとの交流を通じて「もっとハイレベルな仕事をお願いすることで、チームとして良くなっていくのではないか」と気づきました。

オフショア企業から見た日本の開発

ベトナム国内の依頼と日本からの依頼の違い

ギア氏:
以下(1)~(5)の流れで、ベトナム国内の案件だとBUNBU側は(1)から入りますが、日本の案件だと(2)あるいは(3)から入ります。そこが1番の違いです。日本の案件でも(2)から入りたいと思っています。

(1)要件定義
(2)基本設計
(3)開発
(4)テスト
(5)運用

永山氏:
KiZUKAIは(1)を定めたうえで(2)からすべてBUNBUにお任せしました。内部で設計できる技術者がいない一方、国内でお願いすると膨大なコストがかかります。(2)から入ってくれるBUNBUは、コスト面でもスピード面でも優れています。(1)からすべて外部に任せることはあまり聞きませんが、ギアさんどうですか?

ギア氏:
ベンチャー企業ならBUNBU側は(2)から、大企業なら(3)から入ります。(2)から入るほうがエンジニアたちもスキルアップできるし、チームのモチベーションもあがります。

永山氏:
技術者は新しいことにチャレンジしたい。しかし、多くのプロダクトは先端技術を使う必要がないケースがほとんどです。スタートアップの場合、今までにないものを生み出そうとするケースが多いので、そこが面白い。どの技術者も0→1から考える案件が1番楽しいと思います。プロダクトがリリースされて成長していく過程は、技術者もものすごく達成感があると思います。そこを大事にしていきたいです。

オフショア開発のリアル

案件を成功させるためのポイント

永山氏:
プロダクトに対して各自が抱くイメージを「同じイメージ」にするまでの過程は大変でした。初稿でデザインと異なる実装が上がってきたとき、すり合わせに時間がかかりましたが、そこできちんと議論することで、後々は何の問題も起こっていません。日本側は「主語/動詞/目的語」が欠けた状態で伝達しないように注意し、ベトナム側はわからないことをどんどん聞くことが大切です。

ギア氏:
案件を成功させるために、3つの課題を克服しなければならないと思います。

(1)コミュニケーションの壁
(2)チームの技術能力
(3)技術と開発の架け橋(マネジメント)

(1)コミュニケーションの壁
日本企業とBUNBUのチームメンバーの間にはブリッジSEが入ります。ブリッジSEは日本語が堪能なだけではなく、技術を理解していなければなりません。また、日本語は曖昧な言語のため、「主語/動詞/目的語」と文法に意識しながらお互い会話する癖を付ける必要があります。

(2)チームの技術能力
技術能力がなければ、開発ニーズには応えられません。その点、BUNBUは自信をもっています。

(3)技術と開発の架け橋(マネジメント)
日本企業のマネジメントは重要なポジションです。マネジメントは、ビジネスと技術の両方を理解する必要があります。KIZUKAIでは永山さんが「技術と開発の架け橋」になってくれました。この役割が欠けると成功しないと言っていいでしょう。

永山氏:
「この技術が面白い」「最新の技術がある」という技術起点の魅力があったとしても、それがビジネス的に今求められているとは限りません。お金、人、モチベーションをコントロールしてリリースする。市場で本当に必要とされるのかどうかは、実世界で検証しないとわかりません。半年かけて開発しても「もうこれは使えない」ということも起こります。市場環境をきちんとインプットして、一緒に作っていくことが大切です。

ワンチームで取り組むために

ギア氏:
「なぜこの機能が必要か」という情報は重要です。その情報がなければ、簡単な方法があるのに、意図せず難しい方法を使ってしまうこともあります。これはビジネス背景が見えないとわからない部分です。日本企業のマネージャーは、僕たちにビジネス背景を伝えることが必要です。その背景をBUNBUメンバーが理解したうえで、システム開発する。理解していなければ、何の開発をしているのかわからなくなってしまいます。

永山氏:
開発では何万行もコードを書き、大人数のチームで膨大な時間を使います。単調でありきたりな技術を使うところもあり、そこを乗り越えるには「何のためにやっているのか」ここの目的意識がないと、毎日が苦痛になります。毎日楽しく仕事するためにも「どういう人が/何のために使うか」「そのためにこの機能がある」「他にも技術はあるが、この技術を選んだのには理由がある」これらをしっかり共有することは大切です。

ギア氏:
ベトナムのエンジニア給与は急速に上がっています。今後は単価を上げることになると思いますが、そうすると日本企業が厳しくなるので迷っています。

永山氏:
SlackやAWSなど、開発インフラとして使用している欧米サービスのコストも上がっています。単価が上がったとしても、開発期間が短くできればお金も時間も節約できるので、いかに早く確実にやっていくかが勝負になってきます。そのための座組や方法を考えなければなりません。

「互いのリスペクト」がオフショア開発を成功させる

日本のKnow How / Do How

永山氏:
初めてベトナムと取引したのは2010年。語学も技術も優秀で、リモートできちんと意図を汲み取る「すごい人たち」というのが第一印象でした。2016年には現地に行き、急成長するベトナムの街を見て改めてリスペクトの心が生まれ、彼らが活躍するには「どういう伝え方で/何を用意したらいいのか」を強く意識するようになりました。
Know How / Do Howとしては、試行錯誤するなかで、ビジュアルをベースに日本語で説明する方法が一番良かったです。プロダクト開発の最初のインプットは、現地に行って2〜3時間で完了しますが、日常の細かいところから得られる気づきから、自然とワンチームになれるよう1週間くらいは現地で過ごします。「発注者」と「受注者」という旧来のパワーバランスがある状態ではワンチームになれません。

永山氏:
ビジネスサイドから見ると技術者は少しクールな印象があり、リアクションが薄いこともありますが、内面では静かに情熱をもっている人たちです。ビジネスサイドは彼らの情熱を燃やすことが大切で、これは国内でも海外でも同じことが言えます。

ベトナムのKnow How / Do How

ギア氏:
BUNBUを立ち上げた当初は4〜5人から始めました。最初は「どんなサービスを創るのか」見えず難しい問題もたくさんありましたが、1つずつ解決して成長してきました。KiZUKAIのような案件を通じて、BUNBUメンバーは技術を磨き、スキルアップができます。

BUNBUメンバーは、日本のビジネスマナーや語学をもっと磨く必要がありますが、忙しくて勉強する時間がとれないため、仕事を通じて日本との交流環境をつくっていきたいです。
交流できれば互いの仕事のモチベーションも高まります。Know How / Do Howとしては、前述した(1)~(3)を克服できれば、問題なく進められます。

編集後記

本記事では、圧倒的なスピードでプロダクトをローンチしたKiZUKAIのCTO永山勇太氏と開発パートナーBUNBU Japan CEOのレー・ヴァン・ギア氏との対談をお届けしました。

「言語ではなくビジュアルで伝達する。主語/動詞/目的語に欠けがないように説明する。この思考の根底には彼らへのリスペクトがあります」(永山氏)
「ビジネスと技術の両方を理解する永山氏が架け橋になってくれました。彼がいなければ成功しなかったと言えます」(ギア氏)

圧倒的なスピードでプロダクトをローンチした背景には、双方向のリスペクトがありました。

株式会社KiZUKAIは、顧客体験管理が収益につながる次世代型CXMツール「KiZUKAI(キヅカイ)」の開発及び提供を行なっております。
社内にある顧客データを連携するだけで、自動ターゲティング/施策の管理/LTVへの効果測定など、データドリブンなCS/CRM運用を支援します。またAIによるスコアリングやレコメンド機能も搭載されており、予測的なアクションやレコメンドされたコミュニケーションを実行することも可能です。グローバルでは標準化されつつある、Rev Ops(レベニューオペレーションズ)の概念を国内初で取り入れ、顧客の体験価値を高めながら、自社のレベニューへの影響を確認できる、次世代型CXM(顧客体験管理)ツールです。