SaaS型経費精算システム「マネーフォワード クラウド経費」が取り組むCXとカスタマーサクセス

今回インタビューにて、お金に関わるインターネットサービスを提供する株式会社マネーフォワードにお邪魔しました。
法人向けにも個人向けにもお金のプラットフォームとして広く展開している同社は、企業向けに「マネーフォワード クラウド会計」や「マネーフォワード クラウド経費」、個人向けには「マネーフォワード ME」といった複数サービスを提供しています。
本インタビューでは、その中でもSaaS型経費精算システム「マネーフォワード クラウド経費」の事業責任者を担当する今井義人様にインタビューを行いました。
CXと解約率が連動しない特殊事情の中で、積極的なCXの向上に取り組む意味とは。さらに、アップセルやカスタマーサクセスへの具体的な取り組みに迫りました。
インタビューイーのご説明

株式会社マネーフォワード クラウド経費本部 事業責任者 :今井義人様
大学卒業後、2009年にApple Japanに入社し、チャネル戦略などを担当。2012年8月、ミイル株式会社でプロダクトマネージャーとして料理写真共有アプリの開発に携わる。
2015年12月に株式会社マネーフォワードに参画し、翌年3月にリリースすることになる「マネーフォワード クラウド経費」の立ち上げメンバーとして加わる。
マーケティングやセールスプロセス構築等、サービスの立ち上げ期を支え、クラウド経費本部の発足時に本部長に就任。そして現在は「マネーフォワード クラウド経費」事業責任者としてサービスに携わっている。
経費精算のつまずきを少なくして効率化を目指す
「マネーフォワード クラウド経費」とはどんなサービスですか?
マネーフォワードは4つの事業領域からなり、30種類以上のサービスをリリースしています。その4つの事業領域のうち、法人や個人事業主向けの事業領域を「Money Forward BUSINESS」と呼んでいます。「マネーフォワード クラウド経費」はその中の1つのサービスです。
経費精算という誰もが面倒くさいと思う作業をなるべく効率よく行えるような機能を数多く備えています。例えば、領収書の自動読み取りをはじめとする手動入力の手間を省く機能や、スマートフォンで経費申請ができる機能などです。

一般従業員に多い「負のありか」
経費精算はどのような方が担当していてどのような方が求めているとお考えですか?
経費精算に携わる「経理担当者」「承認者」「一般従業員」すべてに課題はあります。なので、私たちは全方位解決を目指しています。ただ、経費精算に携わる人の割合は一般従業員が約8割です。対して承認者といわれる部長レイヤーが2割、経理担当者が2%程度に収まっています。
サービスの使用時間的にも、一般従業員の割合が最も大きいです。私たちはこうした一般従業員に「負のありか」の割合が最も多いという実情を受け止めて、一般従業員の課題解決には特に重点を置いています。

経費精算の最中、溜まっていく負
具体的にどんな課題がありますか?
一般的に経費精算は面倒くさい業務であり、喜んでやる人はほとんどいません。なので「マネーフォワード クラウド経費」は一般従業員にとって好きなツールになりにくく、ユーザーはツールに対してかなり後ろ向きです。
しかし、サービスが会社の運用プロセスにがっちり入ってしまうため、一度サービスを導入したら一般従業員は依存せざるを得ません。こうなると、サービスを嫌いだな、使いづらいなと思ったとしても解約することが難しいのです。
また、チャーンレートやアクセスログでは現状がわかりにくいので、解約率やDAUでは利用者の不満の度合いを測ることができません。
結果として経費精算は面倒くさいと感じるという「負」がどんどん溜まってしまいます。解約していなくても実際の利用者の不満はずっと溜まっていくのです。

乖離していくレイヤー同士の課題認識
課題が生まれるのは何が原因とお考えですか?
経理担当者や承認者は一般従業員の課題を把握しておらず、課題自体の重要度認識に乖離がありました。なぜなら、経理の人の脳内シェアに現場の経費精算おける課題はそこまで大きなパイを占めているわけではないからです。
また、彼らは日ごろ忙しく、新機能をリリースしたとしても何百人といる社員に影響があり、簡単に新機能を試すことができません。それどころか、一般従業員がどのように使っているのか、ちゃんと活用できているのかを見る暇もありません。
つまり、一般従業員に「負」が溜まっていても気づくことができないのです。私たちとしてもこのような実情に気づいてはいたものの、フォローアップが不十分な部分がありました。
NPSとオンボーディングの現状把握、そこからの愚直な改善
利用者にはどのような指標で「負」を測るのですか?
NPSやCSATを活用して測定します。特にNPSは、海外のSaaSの資金調達のピッチ資料に代表されるようなデファクトスタンダードに近くなっています。事業的にも、アップセルやリファラルを目的にしたときにNPSはより購買につながりやすいです。
ほかにも、アンケート等で利用者のオン・ボーディング状況を観察しています。新しい機能が出てもオン・ボーディングが十分にできていない場合、良いCXをユーザーに提供することはできないためです。例えば、サービスの導入から三年が経過した会社が、導入時の使い方や機能のままで、まるでタイムカプセルのようになっているクライアントもありました。
どのように解決していますか?
1:現状のNPSの把握
まずは現状を知ることが必要だと思い、会社の規模や担当者権限別での調査や測定をしました。その時に思ったことはNPSが総じて低いということです。
日本人は低めにNPSをつけがちでNPS数値を公開している企業は少なく、自分たちの現状は他企業と比べてよくわからない課題はありました。しかし低い結果に関してもそれを現状として定点観測を続け、NPS差異を改善していきました。
2:顧客内の企業体制による最適化やオン・ボーディング
次に、サービスの導入にあたって誰が購買の意思決定の主体者であるかによってロイヤリティにもパターンがあるので、それぞれのパターンに応じた打ち手を出していきました。

例えば、役員や部長などの意思決定者が主体者となるトップダウンの購買の場合、プロジェクトのゴールの再確認や現場のトレーニング支援を行うことで、管理者にトップの期待をしっかり伝えて一般従業員のカスタマーサクセスにも貢献するようにします。
対して経理担当者などの管理者が主体者となるボトムアップの購買の場合、トップへの成果報告支援と現場のトレーニング支援を行い、管理者の「顧客(一般従業員)」を支援するようにします。
以上の2つとは例外で、購買にほとんど関わりのない一般従業員のロイヤリティが高い場合があります。この場合は管理者にアプローチし、一般従業員のロイヤリティが高いことをインプットしてもらうようにしています。
個人向けのサービスだと1レイヤーで一人の属性などのセグメントを切っていくだけでいいのですが、「マネーフォワード クラウド経費」は法人向けに展開しているので、一個のアカウントを見てどこの部署にあたるか、意思決定してもらうにはどこからどこに情報の伝達をさせるかといった部門や組織を考慮する必要があります。
このように私たちは意思決定と購買行動を結び付けて顧客の成功にアプローチをしています。
CX(顧客体験)向上のきっかけは?

CXの向上を目指すきっかけは何でしたか?
自主的な顧客のアンケートでカスタマーの声が明瞭に
過去にサービスを導入した会社が自主的に社内アンケートを取り、満足度を可視化してくれた例がありました。
顧客が自主的にとってくれたアンケートですが、私たちとしてもサービスのどういう部分で満足しているかの現状を知ることができ、課題が明確になりました。
以降、私たちからそういったアプローチを行っていきたいと思うきっかけになりました。
感銘を受けたサービスでオンボーディングの面白さを知る

これは個人的な話なのですが、私は最近「Superhuman(スーパーヒューマン)」という月額課金制のメールのサービスを利用しています。通常ならGmailなどで無料利用できるメール機能ですが、CXが良質なために、月額30ドル(約3300円)にもかかわらず使っています。
CX的にすごいと思ったところはオン・ボーディングのプロセスが充実しているところです。アンケートを答えた後にビデオチャットで30分間、ショートカットの使い方やメールの管理方法などをレクチャーしてくれました。
初回のオンボーディングプロセスが非常に面白く、顧客体験として非常に素晴らしいものだと感じました。このメールサービスを利用し始めてから私もメールが好きになりました。
これから解決すべき課題は様々ありますが、そのうちの一つであるオン・ボーディングにも注力していきたいと思ったきっかけの一つです。こういったサービスのオン・ボーディングの体験を参考に自社サービスの施策へ落とし込んでいきたいと思っています。

「マネーフォワード クラウド経費」が今後目指す顧客体験のゴールとは?
今後目指すゴールは何ですか?
経費精算は面倒で大変な作業ですので、私たちはユーザーに良い体験を提供するというよりは、つまずきを少なくしてなるべく苦しみを減らすことを目指しています。
現状私たちが取り組むべきカスタマーサクセスの施策はクライアントとなる企業の担当者にサービスを快適に利用していただくことなので、先程も言ったようにオン・ボーディングに力を入れてケアしていきます。
また、私たちはシンプルにサービス利用者の満足度の向上が、カスタマーサクセスのゴールだと思っています。今後は満足だけでなくロイヤリティが高い状態を前提として、継続率の向上やアップセル、リファラルを狙っていくようなアプローチをしていきたいと考えています。
将来的にはサービスをいじらなくても経費精算が終わるような機能を備えたサービスをリリースして、法人向けの良質なCXを提供したいですね。
編集後記
今回、日本のクラウド会計ソフトの先駆けであるマネーフォワード様のCXについて伺うことができましたが「負は表に出ない」というところに着目している部分が特徴的でした。法人向けのCXに通ずるところがあるのかもしれません。
そして従業員の皆様、笑顔が素敵で生き生きと話していただけたことが何よりも印象に残ります。多くのクライアントを抱えつつも、シンプルでありながら地道に現状を把握し、PDCAを回していらっしゃいました。
きっと、この意識や姿勢が「マネーフォワード クラウド経費」の拡大を後押ししている理由なのでしょう。
今井様、貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
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