日本人向け海外プラットフォーム「ロコタビ」。リピート率を実現するCX戦略とは

現地の日本人とつくる日本人向け海外タウンガイドサービスとしてスタートした「ロコタビ」。
CtoCマッチングサービスとして大きな成長を遂げた同サービスは、どのようなCX戦略を取り入れているのでしょうか。
また、コロナウイルスの影響により海外へ行くことが難しい状況の中、新しい施策を行い、サブスクリプションサービスもスタートさせるなど、次々と展開を進める理由について、株式会社ロコタビの代表、椎谷様にお話を伺いました。
インタビューイーについて

代表取締役 椎谷豊 様
海外旅行情報サイトを運営する株式会社ナビドットコムを経て、2014年1月、日本人向け海外プラットフォーム「ロコタビ (旧トラベロコ)」を立ち上げる。
2015年12月に法人化、現職に至る。
海外在住日本人と作るローカル体験ロコタビとは
まず、貴社のサービスの概要を教えてください。

海外在住日本人によるタウン・コンシェルジュサービス「ロコタビ」は、現在、世界175ヶ国2500都市在住の日本人54000人以上が登録する、日本人向け海外プラットフォームです。
2014年1月にサイトをオープンし、登録ユーザーとロコを合わせて20万人以上が利用されています。
ハワイの言葉で地元の人をロコといいますが、ロコタビでは海外在住日本人をロコとしています。
サービス利用者は、海外旅行先での街案内やショッピング通訳、レストラン予約などをロコに直接依頼し、サービス提供を受けられます。
また、最近では法人利用も増えており、現地視察のアテンド、展示会での通訳、ビジネス商談サポートなど、企業の海外進出支援のツールとしてもロコタビが活用されています。
金額はロコが自分で設定をするため、私たちでは特にコントロールしておりません。そのため、500円のものもあれば50万円ほどのものもあり、かなり幅広いです。
現在、コロナウイルスの影響で海外に行くのが難しくなっていると思いますが、個人ユーザーさんはどのような目的でサービスを利用されていますか?
現在、サイトの主な利用目的は、
- お家にいながら海外気分を味わう
- オンラインサービスを定期的に開催
- お家時間でスキルアップ
- 世界各国のリアルな声を聞く
の4つです。
コロナウイルスの影響で海外旅行できない人が増えているなかで、今やれることをしようとオンラインサービスをサイトのトップに推し出しています。
一番多いのがライブ配信で現地を見るというもので、ユーザーさんからのオンラインサービスへの反応は良好です。
バーチャル海外旅行は海外が身近になる体験でもあるので、コロナが落ち着いても続けていきたいと考えています。
海外在住日本人のポテンシャルを活かしたいという思いからサービスへ
なぜ現在の取り組みを始められましたか?

前職では、海外の在住者に対し、現地を取材して記事を書いてもらうライターの仕事をお願いしていましたが、やりたくても記事を書くことができないという現地在住者が多くいました。
これはもったいないと思い、何か新しい仕事を与えてあげたいと思って始めたのがトラベロコです(※現在はロコタビに名称変更)。
その当時、2012年の頃にはAirbnbのようなシェアリングサービスが海外で流行っていました。
海外在住者の方はそれぞれ独自の才能を持っていて、個人のマッチングの場合はユーザーのニーズが非常に幅広いため、同じように個人をマッチングするサービスを作ればロコの持っている幅広いスキルがお金になる、仕事が見つかるのではないかと考えました。
サービスが軌道に乗るまでに苦労したことはありますか?
スタートして1年ぐらい何もなく、軌道に乗るまでに2、3年かかりました。依頼があっても成立しない、または依頼もないといったゼロの状態が続き、かなり苦労しました。
例えばAirbnbなどは、もともとホテルという需要があるものをシェアリングサービスに置き換えているもので、ユーザーがいるところにホストができる人を集めているだけのビジネスモデルです。
一方で、このサービスはそもそも似た市場がないので、ユーザーがいるかどうかもかなり未知数だったこともあり、集客の苦労は常にありました。
現在では集客の苦労はなくなりましたが、最初にユーザーイメージやサイトコンセプトなど、サービスの根幹となる設計を相当作り込んだので、内容が変わることなくここまで来れています。
最適マッチングとリスクの軽減で確実なユーザー満足度を実現
それでは当メディアの特徴であるCXに関してお伺いします。現在どのようなCXを上げる取り組みをされていますか?

CXに関して意識していることは、最適マッチング、リスクの低減、ユーザー満足度の3つです。
CtoCサービスのため、最適マッチングが最重要部分です。マッチングが最適でないと事業として成立しません。
一方で、日本人同士といえども海外で知らない人同士が会うことのリスクが高く怖いサービスと感じられることもあるため、できるだけそのリスクを下げる事が重要だと考えています。
尚且つユーザー満足度をあげることもポイントです。世の中にないサービスであるので、ユーザー満足度がないと事業継続に繋がらなくなってしまいます。現地で不評などのトラブルが発生すると誰も登録しなくなる可能性もあります。
これらを向上させるためにサービス設計に落とし込んでいるのが、日本人に特化したサービスと簡単に利用できないようにハードルを高く設定することです。
日本人に特化したサービスにしている理由はなんですか?
まず、日本人に特化したサービスにすることで、最適なマッチングが実現するようにし、リスクを抑えています。外国人には言葉の壁やコミュニケーションがとりづらいという問題があり、外国人と日本人のマッチングはリスクが高いです。
前職の旅行会社で実際にあったことなのですが、現地のガイドがアテンドするツアーで、参加した日本人からガイドに関するクレームが寄せられました。ガイドは日本語がよく喋れる現地の人で最高のツアーを催行したと思っていましたが、参加者からは「ガイドがうるさかった、疲れているのにどんどん先に行ってしまった」と感じていました。
これはレアケースではなく、旅行業界あるあるです。そのため、間に旅行会社が入るならまだしも、外国人を含めた個人間でのマッチングにはかなりのリスクが生じます。
日本人同士だけのマッチングに限定することで、リスクが低く、何かあっても当事者どうしで調整ができることが良い顧客体験を生みます。
簡単に利用できないとCXは低下するような気もするのですが、どのような意図があるのでしょうか?
利用ハードルを高く設定していると、簡単に取引が成立しません。わざと決済までの道のりが長く、途中にハードルをいくつも設けるような仕組みにしています。これにより、最適なマッチングの実現、リスクの低減、満足度の向上を図っています。
例えば、簡単にロコが探せないようにサイト内検索ができないようにしています。あえて手間をかけてひとりひとりをしっかりと見て選定してもらうことで、大丈夫な人かどうかをイメージしてもらうためです。
次に、ロコを決めたとしても内容が決まっていません。そこで、決済までにはユーザーとロコの間で何度もやりとりを行うのですが、ユーザーとロコの間でやりとりをする中で、相性などの問題から言い合いになり、物別れに終わるケースがあります。途中で脱落する人もかなり多いです。
これは、事前にトラブルを防いでもらうようにあえてコミュニケーション期間を長くしています。いい加減に使う人は基本的に取引が成立しないようし、本気でやりたい人だけが申し込みをできるようにするためです。
一方で、取引が成立した人は結果的にいい取り引きになり、満足度が上がります。実際、一度使ってもらった方は満足度が高く、リピート率が非常に高いです。例えば、3ヶ月単位のリピート率は40%。海外旅行は頻繁に行くものではないのに、3ヶ月の短期スパンでこの継続率は高いと思っています。
日本人の海外プラットフォームに向けてサービス内容の拡張へ
今後どのような取り組みをしていきたいですか?

我々のミッションは『日本人がもっと世界と気軽につながって、本当に自分の「したい」事が手軽にできるようになることで、今よりも世界が身近に感じられる世の中を作りたい。』です。
それを実現するにあたって、現在のCtoCサービスをオフラインとオンラインで拡張するだけでなく、CtoB、BtoC、BtoBなど、海外と関わる日本人であれば誰もが利用する、海外のことはなんでもできる「日本人の海外プラットフォーム」にしていくことが目標です。
個人も法人も関係なく、ビザをとりたい、移住したい、海外で仕事をしたい、家を探したいなど、ロコタビにくれば何でも解決できるようにしたいと考えています。
具体的に展開を考えているサービスはありますか?
サブスクリプションの旅行体験サービスを本格始動する予定です。申し込んで体験して終わりというものではなく、毎日開催しているのでいつでも旅行体験ができるというコンセプトにしています。ここが他サービスとの差別化になります。
また、旅行業界には展開を広げたいです。現地の旅行会社のランドオペレーターにロコタビに参加してもらうことによって、現地のランドオペレーターとユーザーのマッチングができるようにしたいと考えています。
他にも、現地の不動産や弁護士との連携サービス、企業会員の海外視察や人事研修などもロコタビとつなげられるようにしたいと思っています。
今よりも世界が身近に感じられる世の中を作る
それでは最後に、椎谷様のロコタビの事業を通じて実現したい想いを、お聞かせください。

コロナウイルスは海外へ行くのに大きな障壁であることは間違いないです。しかし、今まさにやっている毎日開催のオンライン海外旅行が、その障壁を解決するのではないかと思っています。
実は日本人の中で海外と関わる人はそれほど多くなく、日本人のパスポート所持者は3000万人しかいません。これは日本の人口の約23%です。まだまだ海外は身近ではありません。
オンライン海外旅行を開催することで、パスポート持ってなくても海外に行けるという体験を提供できます。このような取り組みで、日本の方にもっと世界を身近に感じられるようにしていきたいです。
編集後記
マーケットがあるかどうかもわからないところから、ご自身の想いを起点にサービスを立ち上げ、苦労の末に日本最大級のプラットフォームへと成長させられたことがよくわかりました。
6年程度の短期間でここまで大きなサービスになったという成長率にも驚きです。
その裏には、あえてユーザビリティをよくしないという一見して不思議に思えるCX戦略などがあり、CXの考え方に新たな気づきもいただけるインタビューとなりました。
今後もオンライン旅行の普及をはじめ、新たな展開を続けられることで、日本のみなさんがもっと海外を身近に感じられる世界を実現されていくのだと思います。
椎谷様、お忙しい中インタビューにご協力いただきありがとうございました。
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