「世界中のネイティブスピーカーの知と経験を共有する 」Lang-8の世界を見据えた顧客体験

サービス開始5年で1000万MAUを超える外国語学習Q&Aサービス「HiNative」を提供する株式会社Lang-8、金澤さんにインタビューを行いました。
高い継続率を実現する語学学習のサブスクリプションサービス「HiNative」で取り組む、世界を見据えたCXへのこだわりとはどのようなものなのでしょうか。
言語と文化の相互学習プラットフォーム
まず、貴社のサービスの概要を教えてください

語学と文化に関するQ&Aサービス「HiNative」、オンライン英語学習サービス「HiNative Trek」を提供しています。
HiNativeは全世界500万人のユーザーが利用しており、MAUは1500万を超えます。
HiNativeは、外国語に関する質問を投稿するとネイティブの方が回答してくれるサービスです。
逆に日本語を勉強している方に日本語を教えることもできます。無料で利用可能で、プレミアムサービスのみサブスクリプションとなっています(月額800円〜)。
HiNative Trekは、英作文と発音に対するアメリカ人ネイティブ講師のフィードバックを通じて、英語のアウトプット力を高めるオンライン英語学習サービスです(月額19,600円)。
HiNativeとは別に、英語学習に力を入れたい方にはHiNative Trekを利用していただくイメージです。
どのような方が利用されていますか?

HiNativeは97%が海外のユーザーで、232カ国で利用されています。
一般的な翻訳サービスでは解決できない、生活に根ざした質問をされる方が多いです。
HiNative Trekも個人の利用が多いですが、法人利用も可能です。
最近の事例として、Wantedly Perkという法人向け福利厚生のサービスの中で、HiNative Trekの割引プランを提供し始めています。
全世界の利用ということですが、どの程度の言語に対応していますか?
110を超える言語の質問や回答に対応しています。
UIは、日本語や英語をはじめ15言語ほど。
日本語を外国語に変えると意味が変わってしまうケースが多々あり、多言語に対応するため表現には気をつけています。
サービスをよく理解していない翻訳者に任せてしまうと誤訳されてしまうケースがあるため、サービスを深く理解している社内の英語ネイティブスピーカーが正確に英訳し、その英訳をベースに多言語化サービスで翻訳するようにしています。
さらに、各言語のネイティブスピーカーの方と一緒に定期的な翻訳総チェックを行っています。
世界中の人が母語を添削し合ったら面白い

なぜ現在の取り組みを始められましたか?
弊社代表の喜が学生時代に上海へ留学した際に、ルームメイトと母国語を添削しあって語学力が成長したという体験を元に「世界中の人がお互いの母語を添削し合ったら面白いのではないか」と確信して、HiNativeの元となる外国語の相互添削プラットフォーム「Lang-8」(PC向けWebサイト)を始めました。
その後、スマホアプリに特化した語学Q&Aアプリとして誕生したのがHiNativeです。
HiNative TrekはITやスタートアップの会社向けに立ち上げました。
星の数ほどある英会話サービスの中でもそこに特化している英語学習サービスはあまりありません。
海外の投資家に自分の事業をピッチする場合、ビジネス英会話が必要です。
しかし、テキストに載っているような英語はビジネスでは使えず、日本人はアウトプットも不足しています。
Hi Native Trekはアウトプットに特化し、実際にビジネスの現場で使うようなシチュエーションの英語学習を可能にしました。
母国語を話すだけで人の役に立てるという感動を
現在、CXを向上させるためにどのような取り組みをされていますか?

Q&AサービスであるHiNativeでは、チュートリアルで実際に質問を体験してもらえるようにしています。
Q&Aサービスにおける重要な価値のひとつは、疑問が解決することであり、確実に回答が得られることがユーザーさんが継続する一つの要因となります。
実際に、初日に質問に対して2件以上の回答が得られたユーザーさんの継続率が高いというデータがあります。
2件以上の回答があることで、回答を見比べるなどして情報の正確性を確かめて確実に疑問を解決できることが要因と考えられます。
そのため、回答が1件しか付いていない質問に対してより多くの回答が付くようにするUIの工夫など、初日体験の改善を絶えず試みています。
また、回答をもらえる確率を高める工夫として、botによる回答を取り入れています。
チュートリアルでされる良くある簡単な質問に対しては、botに回答させてしまってフィードに表示しないことで、質問者側はすぐに回答をもらうことができて、回答者側も良くある質問ばかりでフィードが埋め尽くされないようになるため、質問者と回答者の両方の体験向上を実現しています。
ユーザーが自由に質問や回答を送ることができるシステムの中で課題はありますか?

ユーザーの語学レベルが幅広いので、誤解を与えないようUIに気を使っています。
文言においても日本語から外国語に変換すれば他の表現の言葉になってしまうことがあるので、極力完結でストレートな表現を心がけています。
また、使い方に関しては絶えずアップデートをかけていて、ユーザーが質問をしやすくなるよう質問のテンプレートを用意しました。
質問をすることにも一定のハードルが存在します。
テンプレートがあれば使い慣れていないユーザーでも質問がしやすく、ハードルを下げることが可能です。
一方でテンプレートを誤解しているユーザーも多いため、誤解を生まないようなUIにするためのアップデートも絶えず行っています。
施策を行う上でチームとして意識していることはありますか?

施策に対してデータドリブンで評価を行うことです。
自社サービスのドッグフーディングやSNS等での言及・お問い合わせ・ユーザーセグメントごとの個別インタビューを通じて、HiNativeを利用する上で何に価値を感じているか、どこに課題があるかを徹底的に考えて改善施策を検討しています。
さらに、社員同士で実際にサービスを使ってみることで、定性的、定量的な分析を深めています。
データ分析の専門チームとともに施策の検証データからインサイトを得て、ネクストアクションはどうあるべきかの議論を繰り返し、日々改善を重ねていっております。
世界で最も豊かなギブアンドテイクを目指す
今後の展望をお聞かせください。目標となる数字はありますか?

世界に向けたサービスとしてはまだまだ登録者数が少ないと考えています。
1億MAUを超えるのがグローバル基準の目標です。
プログラミングのQ&Aサービス「Stack Overflow」が1億MAUを突破していますが、言語と文化という、よりターゲットの広いテーマを扱うことから、それ以上のポテンシャルがあると考えて規模拡大を目指しております。
ただ、結果としての数字が1億MAUであって、Hinativeを語学のインフラのようなサービスレベルまで持っていくことが真の目標とも言えます。
外国語に関する疑問があったらとりあえずHiNativeに行けば解決できると認知されるサービスにしたいと考えています。
外国語に関する疑問がある時は、Googleで検索するよりもまずHinativeで質問したり検索するような世界を実現して、世界一を目指します。
その目標を目指す上で今後の具体的な取り組みはありますか?

より幅広い層にHiNativeを使っていただけるように検索機能を拡充することと、回答の品質を高めることとは具体的な取り組みの一部です。
疑問を解決する上で、質問を投稿するよりもハードルの低い検索を利用するユーザー層を拡大することが、HiNativeのユーザー層拡大に繋がります。
検索機能をより多くの方に使っていただくためにも、検索機能のUI改善や検索可能な言語数の増加、信頼度順の検索結果を並び替えなど、検索機能の改善に取り組んでいます。
回答の品質向上に関しては、良い回答をしている人がより報われるような仕組みを検討しています。
質問した人や第三者が回答してくれた人に対していいねを押してお礼をするようなシステムはすでにありますが、現状の仕組みだけでは不十分だと考えています。
良い回答に対してはより多くのポジティブなフィードバックが、間違った回答には適切にネガティブなフィードバックが与えられるエコシステムを構築することで、良い回答をするインセンティブを増やすとともに、回答の良し悪しを簡単に見分けられる状態を目指しています。
加えて、機械学習による回答の品質評価の仕組みを導入することも取り組みのひとつです。
機械学習によって回答の品質を自動的にスコアリングできるようになることで、回答だけでなく回答者自体の評価もできるようになり、結果として回答の品質向上に関する様々な施策に活用することができます。
Q&Aサービスは善意によって成り立つコミュニティであるため、人の役に立ちたいという思い・行動がより適切に評価されるようにしていきたいです。
編集後記
すべての外国語学習者のためのQ&Aサービス「Hinative」を提供する「Lang-8」の金澤さんにお話をうかがいました。
外国語学習サービスとして質問者が他では得られなかった正確な回答を得られるという機能的価値とともに、回答者はネイティブスピーカーとして母国語を使えるだけで誰かの役に立つ経験を得られるという情緒的価値にも配慮したCXがサービスのグロースを支えているのが感じられました。
UBERやAirbnbのようなグローバルサービスとして、世界中で外国語学習のインフラになる日が楽しみです。
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