麻布香雅堂が提供する「お香」のサブスクサービス。顧客接点の創出とCX向上の秘訣とは?

毎月テーマに合わせたお香が届くというユニークなサブスクサービスを提供する麻布香雅堂。
ニッチな市場であり、かつ古風な文化とも結びつきが強い業界のなかで、いかに顧客との接点をつくり出し、CXを向上させているかについて伺いました。
さらにコミュニティや新規事業の掛け合わせなど、LTV向上のための施策にも迫っています。
インタビューイーについて

麻布香雅堂 山田悠介代表取締役社長
大学在学中より、父である先代とともに香雅堂の幅広い業務に従事。
卒業後IT系企業に就職したのち、2011年に香雅堂へ入社。
ユニークな「お香のサブスクサービス」ですが、概要についてお聞かせください。
「OKO LIFE」は、香雅堂が製作したオリジナルのお香を毎月お客様の元にお届けするというサブスクサービスです。
単純にお香をお送りするだけではなく、香道をはじめとした和の香りの歴史や文化に関する情報をリーフレットにまとめ、読み物として楽しんでいただけるアイテムも同封しています。
またお香の保管ケースや焚き方のしおりなど、お香を楽しむために必要なものが一式揃うようになっているので、全く初めてという方でも気軽にお香に触れていただくことが可能です。
お香は単なる香りを出すためのアイテムではなく、やはり「和の香りの芸道文化」という要素も強くもっていると考えていますので、コト消費としてまずは体験していただくことが重要だと考えています。
麻布にある実店舗の方でお買い物にきていただくことはもちろん、お店で開催している体験イベントにもお客様をお誘いして、コミュニティ作りにも取り組んでいます。

参考:http://www.kogado.co.jp/event
ご利用いただいているお客様からは「お香が気持ちを切り替えるためのスイッチとして役立っている」という感想を頂戴することが多いですね。
例えば玄関先でお香を焚いて帰宅と外出のメリハリをつける、お仕事をする時だけお香を焚く、といった風な使い方をされているケースもあるようです。
そういった生活の節目を際立たせる意味での使い方など、私自身もお客様の具体的な使用方法を聞いて「いい香りを演出する」ということに留まらない、新たなお香の価値を気付かされることも少なくありません。
文化の体験ということで、まさにCXの向上が重要なポイントになりそうですね。どんな工夫をされているか、教えていただけますでしょうか。
まず大切にしているのは、お届けしているお香のパッケージデザインのクオリティですね。
そもそも、香りというものはなかなか言語化しにくく文章では伝えにくいものです。
だからこそ、パッケージのデザインやドローイングというビジュアル的に目立つ部分にはかなりこだわって作り込んで世界観を演出しています。
いきなりお香の香りだけを嗅ぐと、お寺っぽい、お仏壇っぽいといったイメージにしかならない可能性もありますよね。
それはそれで悪くはないのですが、私たちが目指している方向性とは少し異なってきます。
そういった香りが醸し出す世界観を文章やビジュアルで補完できたらいいな、という思いも込めて工夫しました。

参考:https://oko-crossing.net/okolife/
また、顧客体験の向上におけるモノ作りの取り組みとしては、硬派で本物志向なポジショニングを徹底していることです。
お客様により良い体験をしていただくことに関しては当然いくらでも努力させていただくのですが、あまり分かりやすすぎるものを積極的に狙いたくはないという考え方をもっています。
ただ親しみやすさだけを追いかけてしまうには「香りの文化」としてももったいないと思うので、あくまで私たちが納得するような本気の品質を追いかけて、好きになっていただける人に長く愛して欲しいと思っています。
もちろん主観的な好みの問題もありますので移ろいやすく、難しいところではありますが、大事にしていきたい考え方の一つですね。
あとは商品の品質に関連するポイントとして、香雅堂では可能な限り原材料をオープンにしています。
あえて公開せずに秘匿性を高めて奥深く見せるというやり方も一つだと思いますが、やはりお香は燃やして煙を吸うものである以上、どういう原料で作られているのかは開示する必要だと思います。
化学香料が悪、天然香料が良ということではなく、お客様が選ぶ時の参考にしていただければという考えです。
現在課題としていることや、改善したいことは何かありますか?
お香や香道というのは専門性の高いニッチな市場ということもあり、いかにお客様に幅広く認知していただくかということは永遠のテーマだと思います。
多くの方々に刺さるようにサービスの魅力を伝えることは簡単ではないですが、一つの取り組みとして「OKO PEOPLE」というオウンドメディアを展開しています。

参考:https://note.com/okopeople/m/m5ec9358f2b8a
私たちが様々な情報を一方的に発信するだけではなく、ご利用いただいたお客様など幅広い方にライターになっていただいて、香りのレビューをしてもらうなどの工夫をしています。
繰り返しになりますが、香りというのは文章では伝えにくいものなのですが、歴史的には詩歌と香りの関連性などに代表されるように、何か想像を掻き立てられるような不思議なシナジーがあるとも思っています。
「OKO LIFE」は本年7月で3期目に入るのですが、実はこの2年間はモノ作り、及び環境作りに注力してきたこともあり、あまり認知の拡大には着手していませんでした。
この3期目はこの度リニューアルした「OKO LIFE」のプロダクトサイトとともに、こちらの「OKO PEOPLE」を柱として認知拡大に取り組んでいく予定です。
今後どんな方向性でビジネスを展開していくかについて教えていただけますでしょうか?
他の多くのサブスクリプションサービスにも同じことが言えるかと思いますが、「商品を売って終わり」という形ではなく、コミュニティを形成したり、常連客としてお店に遊びに来ていただいたり、もっとお客様と近い関係性を構築することが目標です。
その一環として現在まだ準備している段階ですが、新たに「OKO CRAFT」というサービスを始めようと検討中です。
「OKO CRAFT」はクラフトという文字通り、お香の関連商品を新規で作っていくサービスを想定していまして、「OKO LIFE」をご利用のお客様や「OKO PEOPLE」のライターさんなどが所属するコミュニティからアイディアベースで商品を作れたら面白いかな、と考えています。
例えば、蚊取り線香の概念を塗り替える商品を作ろう!といった風に、これまでと全く違う視点から商品作りをしていきたいです。
これまでにも化粧品の商品開発に携わったり、イベントの空間演出に香袋を製作したりという他業種とのコラボレーションをおこなってきましたが、より幅広く柔軟な発想で取り組んでいきたいですね。
最後に、山田様が事業を通じて実現したい想いをお聞かせください。
お香が提供できる価値の中で特徴的だと感じるのは、心理的な幸福と文化的な学びが共存している点です。
ご家庭でくつろぐ時間に何か追加したいというような潜在的なニーズを持っている方に対して価値をお届けし、お香が持っている力でより満足していただければと思います。
それにプラスアルファとして、香雅堂のメディアや文章でコミュニティを形成し、繋がることの幸福感を生み出せれば嬉しいですね。
編集後記
お香というニッチな商材を、見事にサブスクリプションサービスとして昇華された香雅堂山田社長にお話しを伺いました。
200年の系譜を持つという硬派な部分を活かしつつ、パッケージデザインを鮮やかなものにするというバランスの良さが絶妙な世界観を生んでおり、非常に魅力的に感じました。
コロナウィルスの影響もあり自宅で過ごす時間が増える人も多い中、お香という日本古来の文化の癒しの力が見直される日も近いのかもしれません。
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