スモールビジネスに「マジ価値」を届ける|freee finance labが作りだした顧客体験

今回はCX(カスタマーエクスペリエンス)の施策についてお話を伺ったのは、クラウド会計ソフトを運営するfreee株式会社 の子会社であるfreee finance lab (フリーファイナンスラボ)株式会社。
2018年にfreee finance labを立ち上げ、クラウド会計ソフトfreeeを利用しているスモールビジネスや個人事業主向けに「資金繰り改善ナビ」をはじめとする各種資金繰りサービスを提供しています。
現在大企業とスモールビジネスでファイナンスの格差が拡大している中、freee finance labではスモールビジネスに対しどのような施策や体験を提供しているのかを本インタビューでは探ります。
今回はfreee finance lab取締役 佐藤さんのご経験も踏まえ、事業立ち上げの背景やCX向上、カスタマーサクセスのための取り組みについてお伺いしました。。
インタビューイーについて

freee finance lab株式会社 取締役
佐藤 顕範 様
2006年株式会社鳥取銀行に入社し、5年間中小企業向け融資業務を担当。200社超の企業の資金調達や経営改善支援の取り組みを経験。担当した多くの会社や経営者が資金繰りに悩まされていることを知る。
そして、2017年にfreee株式会社に入社。事業開発担当として金融機関や事業会社との協業を推進。その後、金融事業本部のマネジメント、子会社であるfreee finance lab株式会社の立ち上げを担当。
2018年よりfreee finance lab取締役に就任、金融関連の新規サービス立ち上げに取り組んでいる。
資金繰り予測や調達可能資金がわかるサービス「資金繰り改善ナビ」
まず、貴社のサービスの概要を教えてください

はい。「資金繰り改善ナビ」ではクラウド会計ソフトfreeeの過去の会計のデータとユーザーの状況から、3カ月先の資金繰りの予測ができます。
そして、現在可能であろう資金の調達方法をクラウド会計ソフトfreeeの会計データと照会しこちらからのオファーという形でご案内、そこから申請まで一気通貫での提供が可能となるサービスです。
AIを用いた資金繰りの予測
現金および預金の過去9カ月の残高推移と、3カ月先の残高予測がグラフで表示され、資金繰りの傾向を把握できます。
残高予測のグラフは、freee finance labが「会計freee」に蓄積されたビッグデータとAIを活用し独自に開発したロジックと、「会計freee」に取り込まれているユーザーの過去の資金推移をもとに算出されており、80%以内の確率で下限ラインと上限ラインの間に収まる予測が表示されます。
「資金繰り改善ナビ」が提供する3つの資金調達の手段
freee finance labが予測したユーザーごとの資金繰り予測から改善の手段として提供しているサービスがオファー型融資、請求書ファイナンス、freeeカードの3種類があります。

1:オファー型融資
まず一番の特色である「オファー型融資」について説明します。

こちらはfreee finance labが金融機関と提携して、ユーザーごとに借入の可能額や金利などの借入金の条件を試算し、利用可能性が高いサービスのみをオファーする新しい形の融資サービスです。
従来の融資サービスは借りることができるかが不確定、実際に出向かなければいけない、代表者保証が必要といった課題がありました。
ですがオファー型融資では事前に条件が明確で完全非対面の上、代表者保証不要なサービスとなっているため、スムーズに融資を受けることができます。
2:請求書ファイナンス

次に「請求書ファイナンス」は、「会計freee」に登録されている請求書を売掛債権として 、オンラインで現金化するできるサービスです。
「請求書ファイナンス」では、オンラインでの請求書買い取りサービスを提供しているOLTA株式会社(以下、OLTA社)と提携してサービスを提供しています。
請求書をオンラインで最短即日現金化が可能なため、急な支払いによる資金不足や売り上げの入金に時間がかかりキャッシュフローが回らないといった問題に対して、迅速な資金繰りの改善につなげることができます。
3:freeeカード

「freeeカード」は経理の効率化や資金繰りの改善、事業用の特典を提供している事業者向けクレジットカードです。
事業用カードを利用することで、会社経営における出費を個人の出費と事業用の経費との分類を効率化することで、後々経理や会計などの作業が簡単になり、経費処理を効率的に行えるという利点があります。
また、「会計freee」などの会計ソフトとクレジットカードのデータを同期させれば、銀行口座も含めた経理状況をまとめ、効率よく管理ができるサービスとなっています。
「資金繰り改善ナビ」が立ち上がるまでのストーリー
なぜ現在の取り組みを始められましたか?
中小企業の黒字倒産を無くしたい
私の過去の経験で多くの中小企業が資金繰りに課題を抱えている様を見てきました。
倒産企業の半数が黒字倒産である現状を解決するために資金繰り改善ナビの提供を開始しました。

第一に、中小企業の資金繰りの課題は社内のリソースやノウハウだけだと解決が難しくあります。事業主のナレッジにも左右されるので、資金繰りの改善方法がわからない企業も多いのが実情です。

併せて大企業と中小企業とでは実際の資金調達のハードルが全然違うということも大きな問題点です。事実、資金調達における貸出推移の格差は拡大しています。(上記表)
経営者が抱える「資金繰り」という負のありか
私は以前、銀行員として約10年働いてきました。
その中で個人の経験として、好業績の企業の資金繰りが突然乱れて倒産したり、規模の縮小を余儀なくされる場面を目の当たりにしてきました。中には実際に倒産した企業もありました。
多くの企業を見ている中で、経営者は経営以前に資金繰りに時間を取られてしまい、本業に力を入れられない実情を痛感しました。
本来であれば社会は、経営者が「経営にフォーカスできるような環境」を作り出してあげるべきだと私は思うのです。
今回の「資金繰り改善ナビ」はテクノロジーを用い、その課題の解決に向かわせることができる一翼となるのではないかと思っています。
お客様がスムーズで安心して利用できるサービスづくりを
現在サービスご利用いただくユーザーに、どのようなCXを上げる取り組みをされていますか?
1:スムーズに使えるサービスを目指して
CXの体験を決める要素として、一番意識しているのはスムーズで安心して手続きができるようなサービスを提供することです。
サービスの提供開始当初は、「会計freee」のユーザーの皆様は比較的インターネットリテラシーが高いため、Webから金融サービスを申し込むことに対して比較的抵抗感が少ないと思っていました。
しかし最初からうまくはいきませんでした。
私共のサービスは資金調達における確実さや簡便さを謳いますが、お金を借りるという行為自体が「気軽ではない」という矛盾がありました。
融資というものは、お金が実際に動くものなので銀行の担当者と対面というイメージが強いのでしょう。あまりWeb から使うというイメージがなかったのかもしれません。
また、私たちは、貸金業者として、東京都等へ登録のもとでサービスを運営しないといけない為、利用開始においてユーザーのプロセスが多い問題もありました。公的機関が制定した規約及び個人情報提供の同意という手順を踏んでいただく必要があるのです。
初期における規約提示や個人情報同意の項目は表現がごちゃごちゃしていました。そこから表記を可能な限り簡略化してわかりやすく表示、チェックボックスも1つに減らすなどの対策を取りました。
結果、スムーズにサービスを利用開始していただけるようになり、問い合わせをいただいたのに途中で諦めてしまう確率は改善しました。
2:新規顧客に対し安心してサービスを使える改善の実施
実際にサービスを使われた方と、申し込み直前でサービスの利用を止めた方にヒアリングしフィードバックを頂き、それを元に改善を重ねています。
メールでインタビュー依頼を送り、ビデオ通話や電話などで1時間程ヒアリングの実施、場合によっては訪問インタビューも行ないます。
実はこのようなアンケートやインタビューは、「会計freee」のサービスにおいても以前から行なっており、freee finance labも同様に実施しました。
背景として「会計freee」はNPS[1]という指標を重視していました。
その指標を向上させるためヒアリングを行う中、実際に使った人だけではなく、使用の直前で辞めてしまった人や、使い始めたけれど使いこなせていない人に対象を絞ることも有効であることに気づいたのです。
[1] NPS :顧客ロイヤルティを測る指標のことで「企業に対してどれくらいの愛着や信頼があるか」を数値化し、企業の顧客との接点における顧客体験の評価・改善に生かすことができる。
3:認知の獲得とサービスの浸透
「資金繰り改善ナビ」は多くの方が助かるサービスとなりますが、未だあまり知られていないという課題があります。コロナ禍の最中である今、更に認知を広げていきたいと思っています。
そして、新たなサービスを気軽に利用していただく為の施策も画策しています。例えば、請求書の即資金化を手軽に試していただく為に、請求書ファイナンスにおいては手数料初回無料キャンペーンなども実施しました。
スモールビジネスの資金繰りの課題が解決できる社会へ
今後どのような取り組みをしていきたいですか?
1:スモールビジネスの資金繰り格差の是正
冒頭のお話の通り、大企業とスモールビジネスとの間で資金繰りの格差をなくしたいと思っています。解決に向けて引き続き取り組んでいきます。
格差として例えば以下のようなハードルがあると思っています。
- 資金繰りの予測をすることが難しい
- 専任の財務担当がいない
- 資金繰りの手段を十分に知らない
- 実際に利用する時にハードルが高い
その解決方法は多岐に渡ると思いますが、我々はスモールビジネスを社会の主役にするというビジョンの通りそのまま進み、さらなる手段を考案、提供していくでしょう。
2:コロナ感染症の影響による企業の倒産を防ぐサービスの提供
また別軸では、新型コロナの影響で資金繰りに悩む企業が増えてきているのが喫緊の課題だと考えます。
そういった企業の支援ができるようなサービスを5月中旬にリリースしました。国が出している持続化給付金制度や公的融資制度のうち、自社が利用できる可能性が高い制度をシミュレーションできる機能です。
公開後1週間で1万を超える事業所の方々にご利用いただいており、さらに多くの方にご利用いただけたら幸甚です。

▼新型コロナ対策融資・持続化給付金利用シミュレーションはこちら
https://www.freee.co.jp/power-to-smb/support/simulation
実際にサービスを使っていただいて、個人の選択肢となりうる公的支援制度を簡易的に把握、迅速に提供可能とする為尽力しています。
真で価値のある体験を届ける「マジ価値」という信念
それでは最後に、佐藤様の「資金繰り改善ナビ」の事業を通じて実現したい想いをお聞かせください。
私たちは、スモールビジネスたちに大企業と遜色のない資金調達ができる選択肢と手段を提供できる存在として常にありたいです。
また、freeeは会社全体として「マジ価値を届けきる集団」というコミットメントを掲げています。「マジ価値」とはユーザーにとって本質的な価値があると自信を持って言えることをするというものです。

freeeの組織全体において、「社会の進化を担う責任感とそれを推し進める挑戦の心を持ち、自律的にアクションを起こす集団であれ」というフィロソフィーが根本にあります。

私たちもそれに同じく、お金という面だけではなくより良い価値を与えるという意識で「資金繰り改善ナビ」を提供しています。
そしてまさに今、時代がコロナをきっかけとして資金繰りに対してより円滑さを求められていると思います。より急いで自社のサービス開発も対応していかなければなりません。
ユーザーがより価値を感じられるサービスを、という本気の思いが freeeの提供するサービス全ての根底にあることを、ぜひ知っておいていただきたいです。
編集後記
今回はfreeeさん内での新規事業、「資金繰り改善ナビ」をインタビューしました。
以前の佐藤さんの実経験、かつfreeeさんが持つテクノロジーの「両軸の化学反応」があり初めて生まれるものであると感じました。
きっと、その化学反応を起こす源泉は、「我々はマジで価値を届けきる集団だ」という社内にある文化と信念なのでしょう。
それらが絡まり生まれた本事業は、規模が拡大すればするほど多くの新規事業主、個人や中小の経営者の助けとなるでしょう。
中小の資金繰り手段についての格差は、会社を運営している私個人としても強く感じます。
freee finance labさんのサービスが、今後日本の社会の中でスモールビジネスを支える大きな存在となっていくことを心より願っています。
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