プロフィットセンター化を目指すカスタマーサポートのジレンマ

プロフィットセンター化を目指すカスタマーサポートのジレンマ

LTV向上の重要性が高まると共に注目が集まるプロフィットセンター化。
本記事ではKiZUKAIのCEO山田氏の考える「プロフィットセンター化を目指すカスタマーサポートのジレンマ」についてご紹介します。「顧客に向き合いながら成果を出せば、チームの在り方は変わってくる」こう語る山田氏の想いとは。

【株式会社KiZUKAI CEO  山田耕造 氏 プロフィール

CRMに着目し同分野でリーディングカンパニーである株式会社ベルシステム24に転職。トップセールスとなりMVPを受賞。CXに関する幅広い経験と知識を深める。

株式会社モンリッチを創業し、企業を中心にCX戦略のコンサルティングを開始。後に株式会社KiZUKAIに社名変更し、顧客体験管理を収益につなげる次世代型CXMツール「KiZUKAI」を提供、CXの普及と活性化に率先して取り組む。

株式会社KiZUKAI 代表取締役社長 山田耕造の写真

収益を生み出す部門とそうでない部門

プロフィットセンターとコストセンターとは?

プロフィットセンターは収益を高める取り組みをミッションとする部門です。一方、コストセンター*は収益に直結しない業務を担う部門で、いかに生産性を高め、コスト低減を図るかをミッションとしています。

*コストセンターは事業にとって必要な仕事を担っており、決して無駄な組織ではありません。

今、カスタマーサポートのプロフィットセンター化が求められている

カスタマーサポート=コストセンターといったイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。しかし今、カスタマーサポートのプロフィットセンター化が求められています。

なぜ、プロフィットセンター化が必要なのか?

第一の理由は、新規のマーケティングコストが上がり続ける中で、既存収益を上げるためです。新規受注が低下しても多くの企業は目標を下げず、ますます目標に届かない「マーケティングの限界」を迎えています。既存収益を上げるには、既存顧客と近いカスタマーサポート部門を「収益を生み出す組織」として捉え直すことが必要です。

大量の人員が必要なカスタマーサポートの運営は厳しくなっています。人件費が高騰し続ける一方、企業のコスト削減目標は上がり続けています。FAQ(よくある質問と回答)を準備するなど問い合わせ数を減らすための取り組みを続けても、問い合わせ数は大幅に減少せず、長い間オペレーションコスト削減を求められ、限界を迎えようとしています。

そこで今、カスタマーサポートはプロフィットセンター(収益を生み出す組織)へと変化することが期待されています。

いきなり「収益を高める組織」にシフトできるのか?

現在、多くのカスタマーサポートは、AHT(平均処理時間)を1つの指標としています。
「1コールあたり何分で対応し、何分以内にCRMシステムに対応内容を入力するか」を数値管理することで対話時間を減らし、業務効率化を追求しています。
たとえば月に10万件問い合わせが来るとします。AHT(平均処理時間)から、必要な人件費を算出するといったロジックで運営するカスタマーサポートは業務効率化のプロフェッショナルとして活動を続けてきた背景から、いきなり「収益を高める組織にシフトしよう」と言われても、一足飛びにはいきません。

「プロフィットセンター化」には手順がある

プロフィットセンターの考え方にシフトし、実際の運営を変えるには次の順に進めます。

【手順1】目標(KPI)設定を変更する
【手順2】KPIを達成するための業務内容に変える
【手順3】業務を支えるインフラ(仕組み、システム)を整える
【手順4】PDCAを繰り返す

なぜ、目標(KPI)設定から始めるのか?

次の2つは運用が全く異なります。
(A)生産性をあげるために「応答率を高めよう」とするチーム
(B)LTVを高めるために「顧客視点の取り組みをしよう」とするチーム

(A)から(B)にシフトするには、まず目標(KPI)の変更が欠かせません。

コストセンターの最大の目標は業務効率化であり、目標(KPI)はそれを達成するための指標になっています。多くのコールセンターでは応答率を重要な指標としています。応答率を高めるためには1件あたりの対応やCRMへの入力スピードを上げなければなりません。これはすべてコスト低減を目的とした取り組みです。
プロフィットセンターの目標は、収益を高めることです。それには、LTVや解約率など収益に直結する指標を追う目標(KPI)へ変更しなければなりません。

具体的に業務内容はどう変えるのか?

コストセンターは「もっとクレーム数を減らせないか」といったオペレーションのプロセス改善がベースにありますが、プロフィットセンターでは「解約率の高い要因はどこにあるのか?」「解約率を改善するためのコミュニケーションはあるか?」という観点で、データを分析し、動向を追いかけ、オペレーションに活かしていきます。

ロイヤリティ向上には次の(A)(B)の両方が必要です。

(A)問い合わせ効率を上げる(受動的アクション)
(B)「ユーザーがどういう行動をしているか/どんなフォローが必要か」できる限り顧客データを取りに行く(能動的アクション)

いっきにやるのは難しいので、(A)をカスタマーサポート、(B)をカスタマーサクセスと2つのチームにわけて進め、それぞれのミッションを設定し、各チームがプロフェッショナル性を持つことが理想です。

【手順4】では次の(1)(2)の品質向上を繰り返します。
(1)データに起因したアクションになっているのか?
(2)収益性を高めるためのアクションになっているのか?
(3)どんな効果があったのか?

これまでのカスタマーサポートは、CRM(対応者/内容/カテゴリーなど)のデータを集めてきました。プロフィットセンターに必要なのは、購買データや顧客行動データです。顧客の声になっていないデータを活用して、能動的かつ顧客に寄り添ったコミュニケーションをすることで(B)を体制を進めることが可能になります。

<CASE>『既存顧客との関係性を高める大手メーカー』

大手D2Cメーカーでは、毎月数億円単位のマーケティングコストをかけています。この業界では新規顧客獲得が難しい「ユーザーの奪い合い」が始まっています。このような状況下では新規獲得のみでは頭打ちで、既存顧客からの収益を高めることが必要です。そこで、既存顧客に近いカスタマーサポートのプロフィット化を実現すべく、マーケティングコストを抑えて、その予算をカスタマーサポートにコスト移行している事例もあります。

LTVに向き合い、経営判断でルールチェンジする

日本ではどのくらい進んでいるのか?

サブスクリプション企業を中心に「カスタマーサクセス」という明確なミッションのもと、部門も立ち上がり、データドリブンな運用が能動的なアプローチとして進みはじめています。

大手消費財化学メーカーやスタートアップでも、次のような部門、チームが発足しています。
B2C:マーケティング部やコールセンターの中にカスタマーサクセスチームが発足
B2B(SaaS):(カスタマーサポートセンターではなく)カスタマーサクセス部門を設立

大企業もマーケティングの限界を迎え、プロフィットセンター化にシフトしはじめたばかりで【手順1】の段階が多いと見ています。

LTVの概念が弱い状態で、新規や月次売上などの単発目標を重視していると、いずれ越えられない壁が現れます。LTVに向き合わなければ、人口減少下では「ユーザーの奪い合い」に陥ってしまいます。国内ではこの考え方がまだ浸透していません。日本はCEOの平均年齢が高く、経営の世代交代が遅れていることや年功序列制、またデータの利活用が遅れていることも影響しているかもしれません。

プロフィットセンター化するうえでのリスクとは?

プロフィットセンター化にはルールチェンジが必要です。
そこで経営観点、業務観点それぞれでのリスクをあらかじめ理解しておくと良いでしょう。

【経営リスク】
多くの企業はマーケティングコストを下げ、CRMまわりにコストを移行することになります。マーケティングコストを下げると、一時的に流入は下がり、売上のトップラインにも影響します。LTVの取り組みは効果が見えるまでの投資期間が必要です。投資期間に耐えられる経営状態であるかどうか、経営判断が難しいところです。しかし、現状を続ければ続けるほど、将来は厳しくなるでしょう。プロフィットセンター化のハードルは非常に高いため、三か年計画などで取り組まなければなりません。

【業務リスク】
目標を掲げたあと、実際どうやっていくか悩み「思ったより効果が出ない」と感じながらも繰り返し向き合うことが求められます。「必ずプロフィットセンター化する」という強い意志が必要であり、指標をおいたうえで仕組み化しておくことが重要です。そこの設計の詰めが甘いと、すぐ元に戻ってしまいます。中途半端に終わること自体をリスクと捉えなければなりません。

顧客満足度を高めながら、収益を生むオペレーションをする

カスタマーサポートのあるべき姿とは?

組織戦略に近く、目標を分け、各自が目標を追うシーンをつくることが大切です。
次の両軸でプロフェッショナル性をもって両輪をまわすことが欠かせません。

(A)オペレーショナルに顧客満足度を高めながらもコストを抑える
(B)利益を生むためのオペレーションをしていく

コスト低減の観点においても海外は進んでいます。たとえばWFMツール**を活用することで、オペレーター全員のスキルをセットし、各自の生産性を数値化。時系列予測で「コールが一日に何件くるのか/どういうコール種別がくるのか」すべてがデータ化されています。それらを自動でシフトに反映(予測から必要な人数配置を算出)し、コールセンターを運用しています。

**WFM(ワークフォース・マネジメント)
「コスト適正化」「サービス品質」の両立を図るためのマネジメント戦略。
適切な人員配置によって、効率的で生産性の高いオペレーション手法を行うこと。

(A)を追求するとWFMを採用することもできます。一方、(B)を追求するには、ユーザーのデータ集約を行い、収益性との紐づけを確認し、データドリブンな運用で見えないユーザーの姿(コールセンターには届かない声)を察知して動くことが必要です。これは「潜在層にしかるべきタイミングでアプローチしていく仕組み」と言えます。
現在はこういった能動的な顧客アプローチに向いたツールも多く出ています。
▶︎ カスタマーサクセスツール23選を比較|データ取得と顧客管理でLTVを向上させる | CX Lab.

顧客に向き合えば変わってくる

コストセンターはプロフィットセンターになれるのか?

10年前はまだ国内でサブスクリプションモデルが浸透しておらず、新たにどのような指標をもつべきか見えませんでした。しかし今、ようやくLTVや解約率といった考え方が浸透しつつあります。

マーケティングの限界を迎え、既存収益を高めなければならない時代に必要なのは、顧客に向き合うことです。そのために「プロフィットセンター」という概念のもと新たな考え方にシフトする。そうすれば「将来収益をあげるために何をしていくのか」に変わり、自ずと部門やチームのバリューは高まるでしょう。

コストセンターは組織全体のなかでの立場が弱いことも多いですが、重要なミッションはすぐ近くにあります。そこにいち早く気づき、取り組み、顧客に向き合いながら成果を出していけば、部門としての在り方も変わってくるのではないでしょうか。

編集後記

本記事では、KiZUKAIのCEO・山田氏の考える「プロフィットセンター化を目指すカスタマーサポートのジレンマ」についてご紹介しました。
KiZUKAIの創業前には、CRM市場のリーディングカンパニーでCX戦略支援を通じて、多くのコストセンターをみてきた山田氏。
「コストセンターは重要な仕事を担っており、業務効率化を追求する必要性も身に染みています。同時にオペレーションコスト削減を求められる一方で、問い合わせ数は増え、採用コストでは非常に苦労しました。そのとき道が開けたのはLTVの概念との出会いでした」という山田氏の言葉が印象的でした。

株式会社KiZUKAIは、顧客体験管理が収益につながる次世代型CXMツール「KiZUKAI(キヅカイ)」の開発及び提供を行なっております。自動ターゲティング/施策の管理/LTVへの効果測定など、データドリブンなCS/CRM運用を支援。またAIによるスコアリングやレコメンド機能も搭載されており、予測的なアクションやレコメンドされたコミュニケーションを実行することも可能です。