楽器を貸したい人と借りたい人をatsumariでつなぐ。気軽に楽器に触れられる顧客体験(CX)を

音大生や音楽教室の生徒、さらに学校の部活動やサークル、そして趣味などで楽器を使用する人は数多くいます。そのような人達は楽器でさまざまな悩みを抱えています。
その悩みを解決するため、楽器を借りたい人と貸したい人をつなぐ、個人間楽器シェアリングサービス「atsumari(あつまり)」のベータ版が2018年にリリースされました。
「atsumari」ではどのようにして顧客との接点を創出し、CXの向上を図っているのかを、運営する合同会社atsumariの木附篤人様とカポラリ真亮様にお話を伺いました。
インタビュイーについて

【左】合同会社atsumari CEO & Co-Founder 木附篤人(きづき あつと)さん
【右】合同会社atsumari COO & Co-Founder カポラリ真亮(かぽらり まりお)さん
2018年、楽器を借りたい人と貸したい人をつなぐ、個人間楽器シェアリングサービス「atsumari(あつまり)」のベータ版をリリース。楽器で悩んでいる人達にむけてさまざまなサービスを展開する。
atsumari URL:https://atsumari.tokyo/
楽器をシェアすることで双方がWin-Winになる「atsumari」
まず、atsumari様のサービスの概要を教えてください。
─木附様
世界初の個人間による楽器シェアリングサービスです。貸したい人は楽器を出品し、借りたい人は気になる楽器とシェア期間を選択し、貸したい人にリクエストすることで借りることかできます。
貸したい人は使わなくなった楽器を出品することで副収入を得ることができ、借りたい人は高くて買えなかった楽器でも一週間単位から借りることができるのがメリットです。
また、借りる人はシェア期間終了後、返却しても良いですし、それまでの使用金額を差し引いた値段で購入することもできます。
これまではベータ版として運営していましたが、お客様方のご要望にお応えし、さまざまな改善を施したアプリを2020年10月末頃にリリースする予定です。
─カポラリ様
大学時代にギターを買ったけれど、働きだしたら演奏する時間がなくなり、ギターを仕舞い込んだままになっている人はかなり多いと調査で分かっていました。また、楽器の良し悪しは試奏してみないとわかりません。それをどう解決するかを考えた末、シェアリングエコノミーに辿り着きました。
アメリカやヨーロッパでは楽器のレンタルは盛んですが、日本では多くはありません。貸す人が売っても良くて、借りたい人が気に入って買うこともできる。高い楽器でも双方が納得する価格で売買が成立するWin-Winな関係が築けるサービスです。
価格やレンタル期間は決まっているのでしょうか?
─木附様
ピンキリです。数万円の楽器もありますし、数百万円のもあります。
また、レンタル期間も1週間から6か月まであり、双方の理解のもとに貸し借りを行っています。さらに、弦楽器の小売り事業を行っており、1000万円から1~2億円のストラディヴァリウス等のオールドヴァイオリンなどを取り扱っています。
これはカポラリの父親がヴァイオリン職人兼ディーラーであることから、連携して事業を行っています。
「atsumari(あつまり)」は、どのような意味からネーミングされたのですか?
─木附様
楽器や人、モノが「集まる」という意味です。
また、私、篤人(あつと)と真亮(まりお)の名前を掛け合わせてもいます(笑)。
いろいろ考えたのですが、海外の知り合いに発音を聞いてもらったところ、良い印象だったので「atsumari(あつまり)」に決めました。
楽器業界の先行きが明るくない現状を改善したい。

なぜ現在の事業を始められたのでしょうか?
─木附様
私とカポラリは、中高が一緒の幼馴染です。その頃は普通の遊び仲間でした。
カポラリは父親がヴァイオリン職人だったこともあり、日本の大学を卒業した後、アメリカのヴァイオリン製作学校に留学しました。そこでヴァイオリン職人が生計を立てることの難しさや、楽器業界の先行きがあまり明るくない現状を見て知っていました。
そして、日本に一時帰国した際、当時、大学院で経営戦略を研究していた私と会い、弦楽器職人業界の苦労を話し合いました。私も幼少期からヴァイオリンを嗜んでいたのでその悩みは理解できました。
そこからシェアリングエコノミーというモデルを楽器でもできないかと考えたんです。
─カポラリ様
最初に考えたのは、プレイヤーと楽器を作る職人をつなぐことでした。
しかし、それではニーズが狭すぎるので、楽器を貸したい人、借りたい人に広げたんです。
日本での楽器市場はどうなのでしょう?
─カポラリ様
昔はヴァイオリンは売れていましたが、今では新品を買う人は少なくなりました。他の楽器もショップで売るのは難しいのが現状です。
また、中古買取をしているショップは楽器を売りたい人から安く買い叩くなど、楽器業界全般で問題を抱えていました。これは世界共通のことです。
2018年にベータ版をリリースされたとのことですが、登録者はどれくらいなのでしょうか?
─木附様
広告はほとんど打っていないので、まだ100人程度です。取引額も1000万円弱なのでこれからといった状態です。
ただ、『中小企業白書 2019年版』に掲載して頂いたり、経済新聞で取り上げて頂いたりと期待の高まりを感じています。
気軽な気持ちで楽器を試してみることが大事。
現在、どのようなCXを上げる取り組みをされていますか?
─木附様
弊社の強みのひとつとして、楽器の卸売り事業により培ってきた鑑定眼があると自負しています。出品された楽器は全て目視で価格の適性を確認しており、あまりにもかけ離れている場合などには価格変更を出品者にお願いしています。
また、お問合せを頂ければ適正価格を出品者にご提案させて頂くなどして、CXを向上させています。
どのように声を拾い改善していますか?
─木附様
音大を含めた何社かにお話を聞き、提携も予定しています。
ショップのなかには我々は敵対関係にあるのではないかと考えているところもありますが、そうではありません。むしろ楽器を購入したいと思っている方にショップを紹介することもあります。
ショップの方ともお話をさせて頂き、さまざまな音楽業界の方々と協力し合って業界を盛り上げられたらと考えています。
─カポラリ様
日本では楽器を習う最初のスタートの敷居が高いんです。
続けるかどうか、その楽器が自分に向いているのかもわからないのに、高価なものを買うのは怖いものです。取っ掛かりとして楽器を借りることでCXは高まると考えています。
顧客の体験を向上させるために重要なことはなんですか?
─カポラリ様
かつて、使わなくなった楽器はフリーマーケットや楽器店に売っていましたが、今はネットを通じて人と人が売買するようになりました。しかし、自分の希望の金額で売るのは難しいという悩みを抱えています。
また、高い楽器を求めている人は、ネットで売られている楽器がどんな音が出るのかわからないという不安を抱えています。なので、一週間なり一か月なりで試奏できる。軽い気持ちで試してみることができるのでCXは高まると考えています。
─木附様
私はヴァイオリンを幼少期から習い始めましたが、最初は子ども用の安いヴァイオリンだったのが、成長に伴いサイズアップする必要がありました。
するとどうしても親御さんの負担も大きくなりますし、習い続ける敷居が高くなります。その点も解消できます。
─カポラリ様
逆に子ども用のヴァイオリンは成長すれば使わなくなります。
そのような使わなくなった楽器を出品して頂くことで、子どもに習わせたいけれど、続くかどうかわからないという人も気軽に始めてもらうことができます。
─木附様
あと、レンタルの楽器はあっても、クオリティが低いことがあります。クオリティの高い楽器で始める方がいいとこだわりを持っている親御さんは多くいます。良い楽器をシェアできれば楽器業界にとってもメリットだと思います。
2020年10月末頃にリリースする予定のアプリでは、借りたい人、貸したい人の両方がうまくマッチングできるように機能を向上させます。
借りたい人、貸したい人でコミュニケーションを取れるようにし、評価をしてもらうことで、別のユーザーの判断の手助けもできようにします。
「atsumari」で新しい音楽のコミュニティを作る。

今後どのような取り組みをして行きたいですか?
─木附様
「atsumari」内でピアノやドラムなどのような持ち運びができない、もしくは困難な楽器が設置された場所を貸出す(スペースシェア)ことや、指導者と新規で楽器を始める人をつなげるスキルシェアなどを、プラットフォーム上で完結させられるようなシステムを作って行けたらと考えています。
─カポラリ様
私たちは音楽業界で悩みを抱えている人達をたくさん見てきました。楽器を貸したい人、借りたい人だけでなく、第2フェーズでは楽器を作る職人にフォーカスしたいという想いはあります。
売れる仕組みを作ることで職人の収入も増えて行くでしょうし、比例してプレイヤーも増えて行くと考えています。
─木附様
音楽は人の気持ちを明るくさせます。「atsumari」で新しい音楽のコミュニティが作れればいいなと思っています。
─カポラリ様
2020年10月末頃にリリースする予定のアプリでは音楽業界全体に広げて、アンプなどの音響機材なども取り扱い、もっと気軽に音楽に触れあえる環境を作りたいですね。
編集後記
ヴァイオリンを通じて理解しあえる二人が、ヴァイオリンや他の楽器を制作する職人たちを支援したいとの気持ちからスタートしたという「atsumari」。楽器を貸したい人、借りたい人の両方の想いを受け止めての事業に、音楽家としての理想と責任を感じました。
音楽を愛する人たちのために、さらに便利にして行くとのこと。きっと、新しい音楽コミュニティが誕生することでしょう。
お忙しい中、インタビューにご協力頂きありがとうございました。
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